答えのないこと 第三十回 私の中のタナトス
小学生の頃、その少女は 「消えてしまいたい」 「死んでもいい」と思ったことがあった。
何か特別なことがあった訳でも、 いじめられていた訳でもないけれど、 「毎日が楽しくない」 ただそれだけの理由で。
それでも、ある日 クラスの人気者で聡明なT君が友人たちに 「俺、死にたいって思ったことあるんだよね〜」と 明るく話しているのをたまたま耳にし、 彼女の心は救われ、また他愛ない事柄として その感情を片づけることができた。
そう思っていた。 少なくとも39歳になった少女は。 少なくとも先週までは。
このエピソードに触れようと 何度か筆をとったものの、 何かが引っかかり、いつも断念した。 その理由が明らかになった。
遥か昔に封じ込めた、 パンドラの箱を彼女は開いてしまった。