『おしえて、アインシュタイン博士』アリス・カラプリス

『おしえて、アインシュタイン博士』
アリス・カラプリス(編) 杉元賢治(訳) (大月書店 2002年)

読み終わった本は、気になったページだけコピーをとり、あとは手放すことにしている。もう一度読み返したいと思うことがあっても、インターネットの発達した時代、再入手できない本はほとんどない。そして、実際、そういった考えに切り替えてから本を買い戻したことはない。――いや、正しくは一冊だけ買い戻したことがある。アリス・カラプリス編『おしえて、アインシュタイン博士』。それがその一冊だ。

私は子供向けに編まれた薄い読みものが好きで、この本もその類と言える。世界中の子供たちからアインシュタインにあてて送られてきた手紙が収められた本。そして、その中の何通かにアインシュタインはきまぐれに返事を出している。世界中の子供たちとアインシュタイン、相思相愛のやりとりはウィットに富み、それがページをめくる大人たちにとってどんな夜であろうとも、ふっと微笑まずにはいられない、まさにベッドサイドテーブルブックにうってつけの本なのだ。

例をあげてみよう。


ちょっぴりおなかが出ています
エリザベト・レイへ

レイちゃんへ
アインシュタインおじさんに会ったことがなくてレイちゃんが不満そうにしている、とエルザがおじさんに言いました。だから、おじさんどんなかっこうをしているか教えてあげよう。色白で、かみの毛を長くのばしていて、ちょっぴりおなかが出ています。それから、足どりはぎこちなく、いつも口に葉まきをくわえ、ペンを手にもっているかポケットにいれるかしています。だけど、足はすらっとしているし、イボもなくて、けっこうハンサムかな。みっともない男のひととちがって、手にもじゃもじゃの毛もはえていません。そんなわけで、レイちゃんがおじさんに会ったことがないのは、残念だね。

アインシュタインおじさんより


子供たちの手紙の内容は実にさまざま。アインシュタインがどういった業績を残した人物かさえ知らずに出された手紙。スポーツ選手かなにかと勘違いしてサインをねだる手紙。臆することなく自分の立てた仮説に意見を求める手紙。アインシュタインに散髪をすすめる手紙。中にはせつない内容のものもある。天体に興味を持つ少女が、女性として生まれてきたことに引け目を感じているという悩みを綴った手紙である。そんな彼女にアインシュタインはこう返事を書く。


気にしない、気にしない
ティファニーへ

あなたが女の子であることは気になりません。
大事なのはあなた自身が気にしないことです。
気にする理由はありません。


私には4歳になる姪がいる。なかなかの器量良しということもあって、気が早いと知りつつも、将来どんな男性のもとに嫁ぐのだろうとついつい思いを馳せてしまう。そんな時、いつも私はこの本を頭に浮かべるのだ。アインシュタインのような才能に恵まれた男性と出会うことは難しいし、出会う必要もない(そういった男性と知り合う事が幸せだとは限らない)。けれど、日々の会話に暖かなユーモアをにじませることのできる思いやりや優しさ、知性を備えた男性ならばいる。彼らの存在は、この世に多くはないにしろ、決して少なくもないはずだ。ならば、そういう男性とめぐりあって欲しい、そういう男性に愛されて欲しい、それが出過ぎた私の――恋多き伯母の姪に対するささやかな願いなのである。まだひらがなも満足に読めない彼女だけれど、あと二年、小学校に上がる頃にはきっとこの本が読めるようになるだろう。

――いつか、アイシュタインみたいな愉快なひとがあなたの前に小さな花束を持って現れてくれるといいわね。

そう伝える日のために私はこの本を買い戻したのである。

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