ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』越智康貴

『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ(新潮文庫 2003年)

僕の性別は男性です。けれど男性が滑稽に描かれている物語を読むと、妙なカタルシスがあります。
特に、シリアスに綿密な計画を練って行動していて、最終的に(限りなく自然な形で)覆り、何もかもが愚かしい事だったと暴かれる時、ほくそ笑んでしまう。
同時に自分自身に対して「お前の事が書かれてるんだよ」という気持ちにもなり、そうやって自虐を添えて‟自分は気づけている″とでも思いたいのかもしれません(この一文ですら、その傾向がありありと)。

ジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』は、ほとんど破綻している夫婦が、連日連夜の計画停電に合わせて、キャンドルを灯してテーブルで顔を突き合わせ、お互いに隠していた秘密をひとつずつ伝える、というストーリーです。日を追うごとに、明かされる秘密の深刻さが増してゆき、最後には……、という、とてもシンプルな仕立てだけれど、その分、動作、洞察、心の機微が際立ち、読み応えがあります。

男性の愚かしさがオチに使われるわけではないのですが、人間の滑稽さ、身勝手さ、そこに内包される愛おしさなどが淡々と描かれていて、日々をつぶさに観察する事に慣れている人、慣れたい人には、余計にその眼を開かせるような素晴らしい作品です。