07. 合い言葉は「ドラえもん!」

私の部屋には、小学生の姪がよく遊びに来る。
その電話は大抵午後、彼女の学校が終わる頃にかかってくる。「今日泊まっていい?」という問いに「いいよ」と答えると、数十分後、私の部屋のインターフォンが鳴る。ドアを開けると、ランドセルを背負った姪がニヤリと笑ってそこに立っている。

私が仕事をしている間、彼女も宿題を片付ける。日が暮れたら、夕飯を一緒に作って食べる。後片付けを済ませ、その後はお風呂に入ったり、アニメを観たり。そして、翌朝、私の部屋から登校する。もちろん、この外泊は母親に承諾を得た上でのものだ。

彼女の通う学校と私の部屋が近いので、立ち寄りやすいというのもある。ただ、理由はそれだけではないようだ。
加湿器に入れるアロマオイルを選んだり、コーヒーをドリップしたり(そのコーヒーは私が飲むのだけれど)、MP3プレイヤーで音楽を聴きながらバスタブに浸かったり、寝る前に私と一緒にボディローションを塗ったり、彼女は大人の生活に身を置くのが楽しいらしい。
部屋には彼女の着替えやパジャマが置いてあり、洗面所には子供用のイチゴ味の歯磨き粉もある。同居人みたいだな、と私も思う。

だから、新型肺炎に対する自衛が呼びかけられるようになって、私は真っ先にあるものを買った。薬用ハンドソープとディスペンサー。ノズルの下に手を差し出すとセンサーが反応して、泡状のソープが適量出てくる。ソープには薄い色がついていて、ゴシゴシ手を洗っていると、泡が段々白くなる。それがしっかり洗えましたというサイン。
姪には普段からうがいと手洗いをさせていたけれど、流すまでの時間が短いのが気になっていたのだ。でも、これなら「ちゃんと色、変わった?」と尋ねるだけでいい。子供の習慣を変えることができるかも!
ドラえもんデザインの青いディスペンサーを私の部屋に。ミニオンズデザインの黄色いディスペンサーを姪の家に。それから詰め替え用のソープもまとめて。ショッピングサイトで在庫を探す。その頃は、まだ手頃な値段で購入することができた。領収書を見ると2020年2月2日と書いてある。

それからは、玄関で靴を脱ぐ姪に「ドラえもん!ドラえもん!」と声をかける。すると、姪はドラえもんソープに向かって走って行く。
部屋から出ていない私も、時には彼女につきあい、並んで手を洗う。
「白くなったかな?」
「まだじゃない?」
私が子供の頃は、こんな気の利いたものはなかったなあ。姪を少しうらやましく思う。そして、ユーモアでひとの行動に少しだけ変化をもたらすもの。私が好きなものはそういうものーーそんなことを改めて考える。

ふと尋ねる。
「ちゃんとおうちでもミニオンズで洗ってる?」
タオルで手を拭きながら姪が答える。
「ううん」
「どうして?!」
「だって、もったいなくて使えないよ!」
「えーっ!なくなったらまた買ってあげるから、ミニオンズ使いなさい!」
子供を叱る理由は、次から次へと生まれてくる。

(2020.4.25)