今日は車でどこへ行こう 第十五回 言葉に意味がのる日まで
「いちお〜、どっちかって言うと〜」 「こんな感じでね〜」「おっけー?」 子どもというものは、 覚えたての言葉を何度も繰り返す。 気持ちはわかる。大人も同じ。 小難しい言葉でも知ったものなら すぐ使いたくなるから。
ただ、私など大人の口調そのままに 真似られると時々ドキッとする。 しかもそこに大した脈絡もないだけに、 意味をもたない言葉だけが妙に際立つ。
「みて! お月さま、きれ〜いだね〜」 ある夜、首を少し斜めに傾けながら、 ほぼ棒読みで話しかけられた。 動作もフレーズもおそらくコピペで、 大して感情が一致していないものだから なんだか可笑しくて笑ってしまった。
いつか言葉通りの心が込められるまで。 言葉と意味がちょっぴり乖離した、 このアンバランスな会話を楽しんでいたい。