RANDOM DIARY:COVID-19 伊藤敦志

コロナウィルスが存在する世界で暮らす一週間。
惑星と指切り。イタリアから届いたレコード。
抑揚のない朗読。祖母を乗せて走る車。
うさぎ着ぐるみと地上最大のロボット。

2023年10月26日(木)

午前6時半起床。7時半に自宅を出る。車の中で今描いている漫画のあれこれを考えながら出勤。ネームはほぼ完成していて、まだ曖昧な部分やもっと良くなりそうな部分を検討しながら本描きを進めている途中。

午前8時半、事務所着。メールの返信。デザイン仕事をしながら漫画も少し。
昼過ぎに買い物へ。途中で同じビルにいる先輩デザイナーさんに会い、少し立ち話。刈谷市美術館で開かれている和田誠展の話。同業の友人たちに好評の展覧会。

矢舟テツロー『惑星/指切り』7インチが届く。聴きながら少し休憩。
夕方、提案していた展覧会のポスターが確定したとの連絡。直し無しで入稿。今日はこれ以上、仕事が動かない様子だったので、映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を観に行く。3時間半の大作。なんとかトイレに行かずに最後まで。

夜、読みかけの南伸坊『私のイラストレーション史 1960-1980』を読了。面白かった。知れば知るほど知らないことが増えていく。23時就寝。


2023年10月27日(金)

午前中、展覧会の交通広告デザインを進める。B0ポスターや看板広告など大きめのものなど。メインビジュアルはすでに出来ているので、それをそれぞれの大きさや比率に落とし込んでいく。こういった作業はあまり悩むこともなく、パズルのような感覚でできるので楽しい。

合間に漫画制作も進めながら。手書きで描いたり、iPadで描いたり。それをまたPhotoshopで編集して様子を見ながらの本描き。昨日は上手く描けたように感じていたけど、今日見るとあまり良くないように感じる。デザイン仕事でもよくある現象。

昼にイタリアからアーランド・オイエのLP『Winter Companion』が届く。注文したのは9月頭なので、約2ヶ月かかった。さらっとした弾き語りに近いスタイル、6曲で15分というミニアルバムかEPかというような短さだけど、とてもいい。

夕方、ZOOMにて新規イラスト仕事の打ち合わせ。 夜はNETFLIXで配信されたばかりの『PLUTO』を見る。原作のイメージと全然違和感が無い、というかそれ以上の素晴らしいクオリティのアニメーション。最後のクレジットに内古閑さんの事務所名を見かける。おおー。


2023年10月28日(土)

事務所に出勤。土曜なので道路が空いていて気持ちがいい。
14時まで仕事をして、愛知県美術館へ。戦前に活躍した写真家、安井仲治展を見る。モダンでセンスよく、そしてデザイン感覚もある構図、構成。美しいプリント。素晴らしかった。

16時からは同館12Fでチラシ、ポスターのデザインをした第27回アートフィルム・フェスティバルのプログラム。気になっていた清原惟監督の新作『A Window of Memories』を観る。
2人の祖母の話を俳優に朗読させるドキュメンタリー(?)だが、進むにつれてどんどんとのめり込ませる何かがあってとても良かった。あまり抑揚のない朗読で語られる市井の人の人生。上映後のトークショーも良かった。


2023年10月29日(日)

父の誕生日祝いを兼ねて家族みんなで食事に行く。父と母は孫が運転する車に初めて乗り、とても喜んでいた。そう言えば、自分も免許を取り立ての頃、祖母を乗せて病院まで連れていったことがあった。その時、祖母がとても喜んでいたことを思い出す。確かに孫の車に乗せてもらったら嬉しいかも。昔はピンと来なかったそういう気持ちが分かるようになってきた。

昨日見た映画は監督自身の祖母に、どうやって生きて、どう思いながら過ごしてきたのかを聞くドキュメンタリーだった。それを見ながら、自分の祖母が「どんな気持ちで日々を過ごしていたのか」というのはあまり考えたことが無かったなと思った。今となっては、“人”としての祖父母にとても興味がある。もっといろいろと聞いておけばよかった。ぼくの父方の祖母は2000年に、祖父は2003年にそれぞれ他界した。

それで思い出した本がある。DEANNA DIKEMAN『LEAVING AND WAVING』という写真集。高齢の両親の家に行った帰りに家の外で見送ってくれる両親を写し続けたもの。やがて、父が亡くなり、母一人になり、息子が運転する車で向かったり、といった様子を淡々と写している。とても気に入っている本。久しぶりにパラパラと眺める。


2023年10月30日(月)

快晴。8時半出勤。今日は展覧会デザインと別件のパンフレットなどを交互に。煮詰まったら、別の仕事に切り替えて、という感じで。ずっと同じことを続けていると、客観的に見れなくなってしまうので、いくつかの案件を同時に進めた方が上手くいくことが多い。

夕方、事務所を出る前に少し運動。あまり運動をしないので、せめてもの気休めの日課。半年前からの五十肩がなかなか治らない。

夜、先日買った安田謙一『ピントがボケる音』を読む。「すべてはレコードのために-小西康陽」という原稿が読みたくて買ったのだけど、ページをめくると読んだことがあるような感覚。1998年のバウンスに載った文章と知り、それなら当時読んでいたはず。先週読んだ本の内容は忘れてしまうのに、25年前の文章はなんとなく覚えている不思議。若い時の記憶は何か違うのかも。いくつかつまみ読みをして、23時就寝。


2023年10月31日(火)

午前中、請求書や見積書の作成、税理士さんに送る領収書の整理など。デザイン仕事は好きだし、フリーランスという働き方も自分には合っていると思うけど、この事務作業はいつも後回し。

昼、イラストレーターさんにお願いしていたラフ案が上がってくる。素晴らしい出来。普段、イラストは自分で描いて、他の人に発注することがあまり無いので、他の方からいただくラフ案はとても新鮮。こういった案件がもっとあれば、イラストレーターさんにどんどんお願いしてみたい。

午後6時に事務所を出て、本屋へ。道すがらうさぎの着ぐるみを被った高校生の女の子二人組を見かける。ハロウィン仮装を見かけたのはそれだけ。例年より少ないような気がした。本屋で松本大洋『東京ジゴロ』の最終巻を買う。


2023年11月1日(水)

朝から美術館へ。来年開催の新しい展覧会の打ち合わせ。よくあるイメージのデザインではなく、違ったイメージのものを作りたいという依頼。打ち合わせである程度方向性を固めて、今はいいものができそうな気がしているが、おそらく作り始めるとすんなりとは上手くいかない。また悩める数週間を過ごすことになる予感。

午後からは大きめのサイズの交通広告デザインを仕上げて送付。そして、イラスト仕事のラフ案を進めようとするが、なかなか集中できないので少し散歩。デザイン仕事はどんな気分でもやれてしまうけど、イラストの仕事は気分が乗らないと全然進まない。この違いは何だろう。

夕方、NETFLIXの『PLUTO』を見終わる。素晴らしいアニメーションだった。そう言えばと、小学生の時に買ったサンコミックスの鉄腕アトムを探し出し、元々の原作である『地上最大のロボット』を久しぶりに読む。子供の頃、いとこがこの本を持っていて、その装丁デザインのかっこよさに惹かれて、古本屋で探して購入したもの。これが初めて読んだアトムだった。

夜、息子といろいろと長話。よく見ているYouTubeチャンネル、音楽、円安、バイトの話など。0時就寝。