RANDOM DIARY:COVID-19 川瀬明日望

コロナウィルスが存在する世界で暮らす一週間。
通勤時間は5分。おこぼれを狙う二匹の猫。
マンホールとブラックバス。手作りのタコス。
日曜日、島の定期船に乗り、髪を切りに行く。

2023年10月30日(月)

一週間の始まり。私の仕事が始まる時間は8時半、通勤時間は徒歩5分。
小さな島暮らしで運動不足なのだから短時間でも歩こうとは思っていたのだが、今年の夏は徒歩5分ですら汗をかいてしまうくらい酷暑だったので、そこからすっかり自転車通勤が定着し、通勤時間1分となっている。

私は3年半前に京都から滋賀県にUターンをして、地元の市町村ではない琵琶湖の離島「沖島」に住みついたのだ。地域おこし協力隊を経て今は地元漁協の職員半年目である。

お昼ご飯は別に家に帰って食べればいいのだが、今まで職場にお弁当を持って行くという働き方をしたことが無かったので、その地味なお憧れの実現のためにお弁当を作って出勤している。可愛いお弁当箱を買って、お弁当に使えるおかずやふりかけを探すのがなかなか楽しい。雇用がほとんどない島で貴重なOL的過ごし方を楽しんでいるのだ。

気候が良くなると、職場施設の屋上やら島内のお気に入りの琵琶湖が見える日向ぼっこエリアでお弁当を食べる。ビル街のサラリーマンが近所の公園や会社の屋上でお弁当を食べている田舎バージョンのよう。最高の景色を独り占めしているので優越感がすごい。

今日は、昨日島内で行ったマルシェの売り物の残りもんを色々いただいていたのでそれを持ってきた贅沢ランチ。後ろの電線に止まっているトンビがピヤピヤと鳴いていて、私のご飯を狙っている。島にはとてもトンビが多いのだ。トンビは後ろからやってくるので、要は自分の体の面積内にご飯を包み込むように隠して食べればとられることは無いので、トンビがたくさんいる場所でもご飯を食べるスキルは身についた。


2023年10月31日(火)

月末なので、伝票整理など事務的な業務ばかりの一日。
漁協事務所には用事がある漁師さんも、特に用事がない漁師さんもふらりとやってくるので、公民館のような地元の公共的な雰囲気がある。

今日は可愛いお客さんもやってきた。島の小学校(半分以上は少人数教育や島という環境を選択してやってきた学区外の生徒たちが通う)の子供達が島内のお仕事学習の為に見学にやってきた。
島内の職場見学となると、本当に限られているのだが、それでも目新しいものを見たようにはしゃいでくれる。子供たちは一人一人がタブレットのカメラで目についたものを全くピントが合っていないまま撮りまくっていた。
私が小学生の頃は、低学年の頃は国語辞典、高学年になるとちょうど電子辞書に変わったくらいの時代だった。携帯も持ち始めていたが基本的に学校への持ち込みは禁止。そんな頃と比べたら今の学習環境の変化はすごいなぁと思う。

退勤して家に帰るとお隣さんが家の前のカゴに野菜がたくさん入っているから好きなだけ持っていきーと声をかけてくださった。こういうのは本当にありがたい。
「たくさん出来るし、老夫婦ではそんなに食べられへんねんから腐る前にもらってもらえたら食べ助けよ〜」と言って下さる。私は、畑をしてないので何も物で返すことができないので、スマホの困りごとを聞いたり、年賀状や熨斗の印刷を請け負ったりなどのちょっとした労働で恩返しをしている。
娘・息子家族は島外に出ている方がほとんどなので、家族の中に若い人がいたらすぐにどうにかできたのだろうなと思うような、ちょっとかゆいところに手を貸すような手伝いがここではなかなか重宝される。
まぁ、もし一緒に暮らしていたとしても娘・息子では親切に教えてくれん…とは良く聞く。
そういえば私も他人相手だから些細なことでもある程度親切にするが、母親がスマホのことを聞いてきても空返事や適当にあしらうことが多いので、ちょっと反省…。

このようなお金じゃないやりとりが、ここの暮らしではまだまだたくさん残っている。お互い様と言って支え合える、人らしい豊かさを島では感じることができる。


2023年11月1日(水)

漁師さんは食料としての魚を獲る以外にも、琵琶湖の生態系に良くないとされる外来魚駆除目的の漁業も行う。
秋がその外来魚の作業のピークで、毎朝ブラックバスやブルーギルといった魚が大量にこの時期は揚がってくる。
ブラックバスはうちの職場ではある程度の大きさのものは食用に加工をする。それ以外のものは業者によって肥料に加工されるのだ。

計量場でのおこぼれを狙って、まっしろな猫とキジトラの猫がペアでやってくる。こぼれた小魚をポイと投げると美味しそうにパキパキと骨ごと食べている。

沖島は猫の島として認知されている時があった。某有名な猫島と比べたら全然いないのだが、それでも引っ越した当初は猫がたくさんいるなぁと感じていた。
コロコロと遊んでいる子猫がいたりしたのだが、ここ最近は私の覚えている限り成猫3匹しかいない気がする…。

「猫の島」と何かの過去記事のSNSを見てやってくる観光客が、猫がいない猫がいない、どこにいるのですか⁉︎と住民に聞いている光景もしょっちゅう目にする。もういないのだよ‥と思いながら、自分のせいではないがなんだか申し訳ない(笑)。

コロナで島に人が来なくなって餌がもらえないから減っただとか、船に乗ってしまってそのまま向こうで降ろされただとか、島外の人が子猫を持って帰っている、大人は去勢されて帰ってきただとか、色々な事情で着々と減ってしまったのだろう。地域猫では無いのでもうなるように…というのが島のスタンスだ。

私は動物好きなので島といえば動物がのびのびしているイメージがあるのでちょっと寂しい気もする‥。島といえばヤギなイメージがあるので猪対策とか何かにかこつけて飼ってくれないかなぁとひっそり思う。

あ、今日からこたつを出したのだ。
早々に寝落ちしてしまいこたつは恐ろしいと思った。


2023年11月2日(木)

今日は朝から衝撃的な光景が。職場の生簀にどうも大きな鯉が入れられていたみたいで、生簀からジャンプしたのか、近くの溝に頭を突っ込んでジタジタする哀れな鯉がいた…。

港のおばちゃんたちの食堂で使う用の鯉だったのだ。ちょっと、いや結構ボロボロになっていたけど、生きていて鮮度は良いのでその後無事に捌かれた。煮付けかな?

今日は港に台船がついていた。台船とは工事等の運搬用の四角い台のような物である。
陸路で運搬ができない場合、その台船に工事用の車両などを乗せて専用の牽引船で台を引いて目的地に資材や車両を渡すのだ。

普段沖島には車は走っていないのだが(そもそも車道がない)、工事の関係軽トラや重機が運び込まれて珍しい雰囲気になる。

今回の工事内容は島内の50個ほどのマンホールの蓋の取り替え工事だ。
実は一つだけ特別に絵柄入りのオリジナルのマンホールを作る段取りをしてくださり、そのデザインの仕事を引き受けていた。もうすぐ、自分の描いたオリジナルのマンホールが近所に取り付けされるのだと思うととてもワクワクする(笑)。
そのうち結婚などをしたら島を出て通勤という形で島に関わるかもしれないけれど、こうして地域に自分の痕跡が増えるとなんだか嬉しいものだ。

夜道を歩いていると、工事用の軽トラがライトつけて走っていた。車がない島に、しかも夜に車通りがある珍な光景になんだかドキドキした(笑)。


2023年11月3日(金)

今日は祝日だが、祝日は関係ない職場なので出勤。
いつもの魚の加工員さんが休みなので、今日は私が魚を捌く。ブラックバスを3枚おろしにして保存するのだ。
一応飲食業界にいたので料理は好きだが、実は魚を捌くのは結構下手くそなのである。しかし練習をしないとどうにも上達しないので苦手なりに頑張って捌く。
すごく下手な時とうまくいくときなどまちまちで、またYouTubeでも見て勉強するかな‥。

そして今日は地域のドローカルな文化祭の日であった。
小学生の和太鼓演奏や、作品の展示、お年寄り向けの体操に非常食がもらえる防災ジャンケン、腹躍りグループの演目など、敬老の日かな?というラインナップでなかなか愛嬌があり面白い。

何か飾りたいものがあったら言ってね!と言われているのだが、なかなか出展できていない‥。趣味の中に写真もあるので沖島島内のスナップ写真の展示だとか色々やれそうなので来年こそ〜と思いながら、来年も同じことを言ってそう…。

今日はそそくさと定時退社後、買い物に行った。
島内にスーパーやコンビニは無い。船に8分程だけ乗って対岸の港の駐車場に置いてある車で15分ほど行けば近江八幡市街地なので基本的に食料品・日用品はこのようにして島外に買いに行く。不便に思われるがむしろ山間部の集落よりもスーパーは短時間で行けるので慣れてしまえば大丈夫だ。時々真剣に買い物はどうするのですか?アマゾンとかきますか?ネットは?水道は?とか聞かれるが、そんな特殊なことはなく、申し訳ないがあなたの暮らしとほとんど一緒だよ‥と思いながら答える。
日帰りで東京に行っても帰って来られるし本当に気軽な島暮らしのフィールドなのだ。


2023年11月4日(土)

今日は地曳網漁をする。YouTubeの撮影の関係で沖島にて漁業体験をしにきていただいたのだ。

学芸員の先生が主役で色々と琵琶湖のことを一緒に見て考えていくという趣旨。琵琶湖ではもう漁業収入としての地曳網漁を行っている人はいない。レクリエーションや体験の時だけ行うのだ。昔はいろんな固有種も入ってきて1日に2回、3回と行うこともあったのだとか。
1回だけでも体験者は水の重みにぐったりしていた。網の中はほぼブラックバスとブルーギルで、ヒガイやウグイが紛れる程に入っていた。
それでも撮影の為に集まったメンバーは非日常の体験をとても楽しんだ。秋の遠足のようなワクワクで、大きなブラックバスを見た時はみんな大興奮。

今の70代の漁師さんたちから、子供の頃の琵琶湖の話を時々聞く。子供が遊びで魚をすくえるくらい魚が島周辺に溢れていて、足を水につけて遊んでいると魚が足を突っつき、お小遣い稼ぎでエビを獲っていただとか、夢のような琵琶湖の生き物と触れ合う湖岸の暮らしがあったのだ。
私は20代なのでもちろん良かった時代の琵琶湖を知らない。子供の頃から環境や生態系に困っている琵琶湖しか知らないのだ。
暮らしが便利に、仕事を楽にしていくとその歪みがどこかに出る。壊してしまったものを元通りにはできないが、次世代なりに琵琶湖を大切にして生きていきたいと、漁師さんを見ていつも思う。

話は戻り、地曳網体験を終えた後は、外来種を食すというシーンを撮影する為に私がブラックバスでタコスを作った。
私はタコスが好きだ。見た目の可愛さ、具材の自由度が高く、色んなサルサや具を乗せて重ねて楽しいが凝縮された食べ物だと思う。
ちょっと見た目が地味な淡水魚もタコスとして彩ればとてもポップな見た目に食欲がそそられる。
「こんな風に食べるの!?」「見た目がめちゃくちゃ良い!」とワイワイしてもらえると私もめちゃくちゃ嬉しい。

メキシコ料理店で働いていた経験が琵琶湖の魚の調理でも応用が利いて本当に良かった。


2023年11月5日(日)

今日はお休み。一軒家暮らしは洗濯物がたっぷり干せるので、基本的に洗濯物は一週間分溜め込む。家の二階からは港が見えるので、港をうろうろしている遠くに見えるおじさんを誰かなーっと横目に見ながら洗濯を干す。

昨日の撮影のタコスの具の残りで朝はチャーハンを作り、NHKの番組をぼうっと眺めながらチャーハンを頬張る。
農家さんの暮らしやお家のご飯の映像が流れ自分も田舎に住んでいるくせに、都会の人目線か?みたいな立場で田舎はいいなぁとこういう番組を見るとつくづく思ってしまう。
私は自給自足的なことはやれてないので田舎に住んでいるが、まだまだ田舎のスキルは身につけられてない。いつかは同世代の友達と田んぼをしたり、畑をしたり、梅干なんか作ってみたいなとひっそり思っている。

そして「Dearにっぽん」という番組が始まった。
何気なく見た番組だったが朝からとてもぐっときた。地域や伝統を残したいと葛藤する二人の登場人物がテーマであった。外からの企画を受け入れ、地域に学生や観光客を受け入れることで、地元の人間に地域の価値に気づいて欲しいと思っている前者と、ずっと地元の信頼できる小さなコミュニティで伝統を守ってきたので、外から地域にゾロゾロと人が来るのを良く思わない後者。どちらも自分の暮らす地域が好きで、誇りを持っているのだ。

外から地域を見ていると、もっと積極的に移住者の受け入れを進めたらいいのにとか軽々しく私も言っていたが、いざ住んでみて長く関わると、自分たちだけではもうどうしようも無いのはわかっているけれど、誰でもかんでも受け入れる訳にはいかないという葛藤も理解できるようになった。

先のことを考えつつ、今そこにいる人たちを大切にしないといけない、不安にさせてはいけない。地域で何かアクションを起こすには絶妙なバランス感覚がきっと必要なのである…などと考えながら休日をスタートさせた。

今日は髪の毛を切りに行くので、支度をして定期船に向かう。
毎日港をぐるぐる散歩しているじいさんの「おい、どこ行くんや?」という挨拶代わりの会話を適当に済ませ、船内でも「今日はどこ行きや?」とまた別の人に尋ねられる。まともに答える時もあれば適当にそこら辺〜とあしらう時もある。田舎の干渉にはそのくらいいい加減でもいいのだ。
私もよくどこ行くの?何するの?何買ってきたの?〇〇さんも出かけたよ、とか同じように聞くようになって思ったが聞いても別に後々そこまで覚えてない(笑)。

「草津まで髪の毛切りに行くの」と答えると「それはええこっちゃ!!」と謎の回答。
そんなたわいも無い会話が結構心地良かったりする。