RANDOM DIARY:COVID-19 内古閑智之

コロナウィルスが存在する世界で暮らす一週間。
無人のデスク。増え続けるハイテク素材。
カタカナのサイン。あの頃の女の子たち。
焚火とテント。雨音。ひとが最果てへ向かう時。

2022年4月13日(水)

アニメ友達(?)の長谷部千彩さんからのお誘いで一週間の日記を綴ることになりました。

コーヒースタートは大切ですね。鎌倉のカフェ・ディモンシュの豆でコーヒーを煎れてからスタート。先日マスター堀内さんが煎れるところを目の前で見せてもらったおかげで、以前より美味しく煎れられるようになった気がする。定期的にお店で確認して再現度を高めたい。「趣味はなんですか?」と聞かれたら「コーヒー煎れること」と答えたい。

弊社は11時始業。スタッフ全員がテレワークになってから早二年。無人のデスクが並ぶ事務所の隅でひとりぼっちで働くことにもすっかり慣れたよ、なんて、うそぶく男は誰もロンリーソルジャーボーイ。

韓国のイラストレーターDSマイルさんの画集デザイン入稿。
タイムリープ能力を持ったヤンキーのアニメ『東京リベンジャーズ』仕事のラフ作成。
スタッフとのオンラインミーティングなど。

夕方、妻と一緒にイラストレーター・フライさんの個展『あなた』初日の会場へ。
今回、個展のメインビジュアルや会場のグラフィックを担当していて、昨夜、遅くまで会場の設営を終えたばかり。
普段、印刷物やモニターに表示されるデザインをすることがほとんどなので、会場の空間作りに関わることが新鮮だった。その仕事を妻にも見てもらいたくて一緒に。
フライさんも在廊中だけれど、お客さんの対応に忙しそう。一瞬だけ話す。

同じく原宿のBOOKMARCでコラージュVJユニットonnacodomoの個展『STILL IMAGINE』も覗く。
onnacodomo の野口路加ちゃんは、彼女が大学時代にアルバイトしていた代官山のセレクトショップ ivy のデザインまわりを僕が手伝っていた頃からの付き合い。

山と道の5-Pocket Pantsのネット販売。運良く買えた。いつからかコットンの服を買わなくなってきて、クローゼットの中のハイテク素材が増え続けてアウトドアおじさん化が進む。

事務所へ戻ってから仕事の続き。スタッフのデザインチェックなど。


2022年4月14日(木)

スタッフがリモートになってから自分も自宅で働くか、もっと狭い事務所を借りるか結論でないまま。すぐに答えは出ないけれど身軽になるための準備。段ボール20箱近くの写真集やデザイン書籍を古書店に買い取りへきてもらう。結果、学生〜駆け出し時代に手に入れたものが残りがち。渋谷系の魂百まで。

女の子達がアイドル活動をするアニメ『アイカツ!』の10周年記念作品の制作発表。10年前に『アイカツ!』のデザインをしながら考えていたのは、作品に触れる子供たちが大人になった時に「アイカツ!って、なんかオシャレだったよね」と思い出話をしてくれたらいいな、ということ。
あれから10年。あの頃の女の子たちはどうしてるだろう。

午後、ミュージックビデオの仕事で絵コンテ作業。数年前から稀にアニメのエンディングなどの映像の依頼が来る。なぜか。
自分に映像の資質があるとは思えないけれど、学生時代に憧れた信藤三雄さんや groovisions がMVやPVの仕事をしていたように、デザイナーだから作れる映像もある気がして、自分なりに無理して背伸びして作っている。

H社の編集者SさんとN社の編集者Iさんが実は元同僚で、三人とも近所住まいと分かり、幡ヶ谷の水無月に集まって食事。
真面目すぎるくらいの印象があったSさんが昔、仕事から逃避して衝動的に北海道の最北端・稚内へ失踪した話が面白かった。曰く「ひとはツラくなると“最果て”へ向かうんですよ」とのこと。その言葉を聞いて、アニメ『白い砂のアクアトープ』の主人公・風花がアイドルを辞めた後、衝動的に最果ての地・沖縄へ飛んだことを思い出した。
二軒目にワインショップflowでクールダウンのつもりが、Iさんのテンションがすごいことに。誰もが仕事の時とは違う顔がある。
26時頃に帰宅。


2022年4月15日(金)

ウマっぽい女の子たちが走るアニメ『ウマ娘』のデザイン。
白くて丸い可愛い魑魅魍魎が出てくる7月放送のアニメ『ちみも』のデザイン。

音楽の仕事の打ち合わせ。意外な依頼。至極光栄。

仕事先の人から「先日の小野坂・秦の8年つづくラジオのイベントへ来ていたんですよね? 私も行ってたんですよ」と言われて、びっくり。

あるクライアントから「フライさんの個展を見たい」とリクエストあり、ギャラリーへ案内。平日のお昼でもお客さんがたくさん。

会場で、フライさんのファンから突然サインを頼まれ、でっち上げのサインを書く。気まぐれに「ウチコガトモユキ」とカタカナでサインしてみた。90〜00年代クリエイターごっこ。
フライさんのインスタライブに声だけ出演。

次の打ち合わせ場所、阿佐ヶ谷まで渋滞に焦りながら滑り込みセーフ、セーフ。
隠キャな女の子がロックをやるアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の打ち合わせ。オンラインじゃ誤解されかねないニュアンスを伝えたくて、対面打ち合わせ。まだ完全リモートの道は険しいのかも。そういう意味で、顔をつきあわせた意味のある打ち合わせだった。

事務所へ戻ってから、スタッフと新連載漫画のロゴ打ち合わせ。途中から雑談になり「コロナ時代の友達の作り方」について。


2022年4月16日(土)

妻のリクエストでUber Eatsで朝マック。
昨年開催された『岡本仁が考える 楽しい編集って何だ?』展で購入した「HERE TODAY」マグカップでディモンシュのコーヒー。SUNDAY PROMISEで、man in cafe な朝。ベーコンエッグマフィン美味しいのね。

自転車で池袋の東京芸術劇場まで。
推し劇団であるロロの『ロマンティックコメディ』を観劇。ロロの魅力はいくつもあるが、舞台美術の楽しさもひとつ。今作は丘の上の本屋を舞台にした群像劇。舞台上に積まれた本の中に、レム・コールハースの『S,M,L,XL』を発見。過去作では、ゲーム『MOTHER』の攻略本や小池栄子が表紙の2002年の週刊少年マガジンが舞台にしれっと置かれていたり、そこに意味があるのか、ないのか、90年代の音楽にあったサンプリングの妙に通ずる楽しさ。

ロロの公演は基本的に二度観ることにしていて、そのうちの一度は『アイカツ!』の木村隆一監督と一緒に観るのがこの数年のお約束で、観劇後に感想と近況を話すまでがセットの楽しみ。
今、木村監督が制作中の作品の苦労話を聞いて「SHIROBAKOみたいですね」と笑ってしまった。当人は笑い事じゃないですね。応援しています。

木村監督と別れて、自転車で東長崎のトキワ荘へ。
僕は20代の頃「でざいん道」というブログと、「らじお道」というネットラジオをしていたくらい影響を受けた我孫子先生…。

そのまま自転車で練馬にある友人の事務所へ。UIデザイナー吉竹さんとは、groovisionsのマネージャーさんから紹介されて以来、何かとよく遊ぶ仲に。大人になってからもこんなに仲良くなる友達がいることが楽しい。
今日はカメラの話で盛り上がる。吉竹さんのLeica M10-Dを触らせてもらったら欲しくなり、その場で中古検索。どこも在庫が無くて、いろんな意味でセーフ。

帰り道、信号待ちしていたら、後ろから大きな声で「その自転車、モールトンだろ! なんて車種? 高いヤツでしょ!」とオジサンから声をかけられて怖かった。

晩ご飯は妻リクエストで、とんき目黒本店。トンカツの美味しいお店は他にもあるけれど、とんきは、トンカツのようでトンカツとは違う何かを目指している、そのことを久しぶりに実感。

Switch版『十三機兵防衛圏』をダウンロードしている間に寝落ちしていた。


2022年4月17日(日)

単行本よりも、漫画雑誌を読むのが好き。毎日発売される雑誌を読むのが楽しみだけど、最近は時間が無くて週末にまとめて読みがち。
学生時代から買い続けている雑誌のひとつ、ビッグコミックスペリオールの『らーめん再遊記』。カリスマラーメン店から暖簾分けされた弟子たちの店がいずれも人気が出ないという話。そして、その原因は弟子たちの能力に問題があったわけでない、というオチ。デザイン事務所に置き換えて読む。料理とデザインは似ている。
料理人をデザイナーに置き換えて読むなら、同じくスペリオールで連載中の『味いちもんめ』もお薦め。

お昼に妻と下北沢まで散歩。20代はずっと下北沢に住んでいた。その頃からのお気に入りの紅茶専門店ラ・パレットが定休日だったので、同じく青春時代を過ごしたカフェT(ティー)で看板メニューの若鶏のブラウンソース煮を食べる。

一番街商店街を歩いていたら美容師さんと遭遇。近頃はお父さんにつれなくなってきた娘さんの話題。「3歳くらいまではヤバイ可愛さだったのに」と熱弁される。

事務所で、ねこっぽい姉妹の漫画『うめともものふつうの暮らし』のデザイン。

日曜なので、少し早めに帰宅して漫画を読んだり。

放送当時もアニメは観ていた『ゴブリンスレイヤー』に今さらハマり、原作、コミックをまとめ買いして、毎日少しずつ読みながら寝るのが日課。


2022年4月18日(月)

毎朝、出勤までがアニメ、漫画、ゲームの時間。
月曜日はヤングマガジン。『ザ・ファブル』『君が獣になる前に』『犬と屑』とピリピリした回が続く。アプリ漫画のように課金して先読みできるなら課金したいくらい。
逆に、新井春巻先生の新連載『女子校のこひー先生』の暢気な楽しさよ。今ヤンマガで一番好きなヒロインは『ケンシロウによろしく』の里香。

スタッフがリモートになってから、事務所の掃除を業者さんにお願いしている。スタッフが出勤していた時から頼むべきだった、と毎回思う。
掃除のひとの息子さんの話を聞くのが好き。コロナ禍の学校行事、受験、なにが流行っているのか、いろいろ質問してしまう。この春から高校へ入学して、今はどの部活に入るか悩んでいるそう。

ニチアサ作品『ワッチャプリマジ!』のイラストラフ作成。小学2年生の姪が観てくれているか、今度聞いてみよう。

母と義母へ「母の日」に贈るお花の手配。近所の花屋edenworksへお願いした。

東京に24区目ができる近未来のアニメ『東京24区』のデザイン。
新連載漫画のロゴデザイン。などなど。

23時頃に仕事を切り上げて、明日のキャンプの準備。


2022年4月19日(火)

朝8時半に出発。
おぎやはぎのラジオ『めがねびいき』を聴きながら、待ち合わせのマックスバリュ富士河口湖店に10時前に到着。

今日は、この10年でアニメ『凪のあすから』『色づく世界の明日から』『白い砂のアクアトープ』と、3作品をご一緒した篠原俊哉監督とふたりソロキャンプ。

篠原さんとふたりでキャンプへ行くのは、2019年の四尾連湖キャンプ場以来。 今回は富士山の麓、ふもとっぱらキャンプ場。日中ずっと曇り空で、たまに雲の隙間から見える富士山にふたりで一喜一憂。

天気のせいで想像していたよりも寒くて、明るいうちから焚き火を始める。身体を暖めるために篠原さんが作ってくれたジャガイモとキャベツのスープが染みる。

合間にスタッフのデザインチェックしたり、キャンプ場にいることは伏せてクライアントからの電話対応したり。いわゆるひとつのリモートワーク。

焚き火の世話をしながら、これまでの作品のこと、仕事について、家族について、これからのこと。こんなに話すことがあったのかと自分たちでも驚くほど、たくさんの話をする。仕事付き合いとも友人関係とも違う、不思議な関係が心地よく、大切にしたい縁。

夜は焚き火で肉を焼きつつ、最後は残っていたスープにパスタを入れて〆。 22時頃、雨が降ってきたタイミングで、それぞれのテントへ。

23時。テントの中で雨音を聞きながら、この日記を書いています。 明日の朝は、ホットサンドとディモンシュのコーヒー。