RANDOM DIARY:COVID-19 イナガキナオコクレール

コロナウィルスが存在する世界で暮らす一週間。
鉄瓶と白湯。朝のルーティン。早稲田の中華。
インコのティトちゃん。この冬最後の酸白菜。
手ぬぐいとiPad miniをお供に西へと向かう。

2022年3月14日(月)

朝起きて鉄瓶でお湯を沸かす。
時間をかけて出来た白湯は、まろやかで美味しい。
1日分を作って、お気に入りの香港製の魔法瓶にいれておく。

コロナ以降、自然にできた朝のルーティンをこなす。
いつも簡単に済ます朝ごはんの後に、気功で軽い運動をして、毎日少しの時間でも英語の勉強をする。
上達したくて続けているが目標に到達できるのはいつのことやら…きっと一生勉強していそうな気がする。
でも考えてみれば、ずっとやることがあると思えばそれもいいのかも。

日中は5月並みの暖かさだそうで、温暖化の影響を感じずにはいられない。
今年の夏は一体どうなってしまうんだろう。

今日はVMD/ヴィジュアル・マーチャンダイジングの作業へ。
ウィンドウディスプレイデザインから始めて、いまはフリーランスで仕事をしているが今年で30年目になった。
VMDの仕事はプランニングなどの準備をして、現場でインストールして完成する。
店舗での作業にはきちんとした格好で行くようにしているので、気持ちが入れ替わる。

新しくてピカピカしたものより、使い込まれている美しさが好き。
今日のクライアントのお店も、ビンテージの什器がコーディネートされている素敵な空間。
作業の最後に什器を拭いて仕上げるが、ガラスや真鍮がきれいになっていくのを見るのも好きだ。
仕事の後いつもプチ達成感を得られるし、自分に向いている仕事ができるって本当にラッキーだと思う。
帰り道の夜は冷えてきて、また冬に戻ったようだ。


2022年3月15日(火)

ラジオを聞きながら、鉄瓶でお湯を沸かす。
辛いニュースが多くて、やるせない気持ちになる。
自分にできることを頑張って、毎日を大切に過ごさなければと思う。

朝のルーティンの前に、お雛様を片付ける。
実家の雛飾りを処分するときに、三人官女とお道具の一部をもらった(お内裏様とお雛様は姪が受け継いでいる)。
その後、雛祭り自体を忘れてしまっていた年もあったが、コロナ禍から家にいる時間が増えたせいか今年も飾り付けができた。
人形とセットのオルゴールで雛祭りの歌を聞くと、お雛様を買ってくれた祖父母を思い出して涙が出そうになる。
果たして私は、二人が願ってくれたような人間になっているのだろうか。

午前中仕事をした後は、天気もいいので、時々顔を出している早稲田の宝美楼へ夫とランチへ行く。
創業1948年の宝美楼は、お父さんのご両親が始めた中華料理のお店で、台湾からお嫁に来たお母さんと2人で経営している。
歴史を感じるお店に、大好きなオールド香港を思い出す。久しぶりだったのもあって、来店を喜んでくれた。
2人から、常連さんは高齢になり、コロナ以降はめっきりお客さんが減っていると聞いて心配になってしまう。
お父さんは今年で80、お母さんの作る料理は優しい味わいの手料理だ。まだお店を続けてもらいたいから、これからも通って応援したい。

ランチのあとは早稲田を少し散歩。
絶版の本も扱う古本屋さんで、ジョージ・オーウェルの本を買う。
早稲田は個人経営の本屋さんもまだ頑張っている、好きな街のひとつ。
高田馬場まで歩いて、ベトナム食材屋さんで買い物する。
駅の近くは、アジア系のお店が増えていて面白い。
家に戻り、今日中に終わらせる仕事をして、慌てて明日からの出張の準備。
4時半に起きる予定なので、寝る前から緊張して毎回よく寝られない。


2022年3月16日(水)

無事に4時半に起きて、白湯を飲んで軽く気功をする。
あと1時間遅くても十分間に合うがコロナ以降少しでもリスクを減らすべく、出来るだけ空いている時間帯に移動するようにしている。

京都に到着。
仕事場の近くで朝ごはんを食べ、英語の勉強を少しして本を読んだりして過ごす。

作業の後すぐに大阪に移動するので数時間の滞在になるが、街中やひとの佇まいに京都らしさを見て楽しむ。
桁違いのスピードで変貌していく東京で暮らしていると、ここ、京都にも変化は訪れているだろうが、それでも風情の残る特別な場所だと感じられる。市民一人一人の努力で、街が守られているように思う。

梅田での作業の後は、ホテルにチェックイン。
近場のいつも同じお店で夕食。
コロナ後から仕事の時など一人で外食をする機会が増えたが、この変化もまた楽しんでいる。
ホテルへの帰り道、子供の頃からの夢のひとつは自立することだったのを思い出して充実した気持ちになる。

部屋で夫と電話した後に、お風呂に入って早めに休む。
寝るギリギリまで読書をするのが習慣で、本を読みながらウトウトしていたら、ミシッと音がして部屋が揺れたので飛び起きた。
急いでニュースを見てみると、宮城と福島で震度6強!
夫と家族に連絡をとる。
先週、東日本大震災から11年経ったというのに被災地の方には本当に気の毒だと思う。
その後なかなか寝付けなかった。


2022年3月17日(木)

起床、快晴。
すぐにTVをつけて地震のニュースを見る。
津波警報が解除されていて安心する。
夜中に避難された方の大変さを思う。
普通の日常が、どれだけありがたいかを痛感する。

開店前の店舗に行き、作業をスタート。
空間の取り方や商品をはじめに観察することなど、子供の時に学んだ生花の技術がVMDの仕事に生かされていると思う。
お習字を習っていた先生から、生花とお茶のお稽古も受けていた。
先生は戦争未亡人で、ご主人が戦地から戻らなかった話を生徒の私たちにしてくれたことがいまでも忘れられない。
教室にしていたご自宅の床の間には、お花や季節ごとの飾り付けがされていてお稽古に行くたびに楽しみにしていた。
ディスプレイに興味を持つきっかけになったと思う。

作業が終わってすぐに新大阪に移動、駅でランチ。
無事に移動できて帰宅。
自宅に着くともう遅い時間で、ご飯の後少しぼんやりしていたらすぐに寝る時間に。

旅や出張のお供は手ぬぐいと、目覚まし時計とオーディオとして使っている2世代目のiPad mini。
ホテルの部屋に到着して一番に聞く曲は、ウラジミール・アシュケナージのショパンで、どこにいても心が休まる。
手ぬぐいは夜洗って朝には乾いている、優れたエコアイテム!長年愛用している。

寝る前に踏み竹を5分。
足の疲れを取るためにいろいろ試してみて、結局これが一番簡単で毎日続けられる。
お気に入りの踏み竹は竹製で、普通サイズとポータブルサイズの2つを重宝している。


2022年3月18日(金)

起床、出張の疲れからか体が重い。
朝ごはんにさつまいもを食べて軽く気功、打ち合わせへ出かける。
昨日までの暖かさと打って変わって、雨が降って寒い。
午後に自宅に戻って、デスクワーク。

パソコンやスマホを使うようになってから書くことが減ったけれど、何かを書いていると気持ちが落ち着くことを再発見。ミニノートを持ち歩いて、気になったことなどをメモするようになった。
紙の上で思いついたことを書き留めているうちに、考えがまとまってくるのも面白いと思う。

中華鍋で野菜炒めを作って魚を焼き、作り置きの副菜を付け合わせにした夕飯を済ませる。
夕食後にNetflixを立ち上げると、ずっと見たいと思っていた「泥の河」を発見して早速鑑賞。
1981年に公開された「泥の河」は、戦後に残された庶民の悲しみや苦しみを描いた作品でラストシーンは号泣してしまった。
どんな大義名分があったとしても、戦争には絶対に反対だ。
1日も早く平和な世界が訪れてほしいと思う。


2022年3月19日(土)

今週はペットのインコと遊ぶ時間があまりなかったので、午前中に長めの放鳥タイム。
6歳になる3代目ティトちゃんは、女の子で甘えん坊。雌はあまり人間の言葉を話さないと言われているが、私達とコミュニケーションをとりたいと思ってくれているのか雄並みにお喋りできる。
小さな鳥にも個性があって、好奇心旺盛だった一代目、シャイで怖がりの二代目と性格が違っていた。

子供の頃から動物、特に鳥が好き。
内田百閒「阿呆の鳥飼」を読んでとても共感したのが、外を歩いていて鳥の声が聞こえると馴染みの人に出会ったような気持ちになって、声の主を探してしまうこと。
ほとんどの場合、鳥は身を隠せて安心できる(と思う)木に止まっている。
いま住んでいる街でも、樹木が減っているのが気掛かりだ。
もしも鳥好きが世の中に増えたら、木を一本切ることの影響ももっと感じてもらえるのかな。もちろん鳥のためだけでなく大切な生態系の一部だから。

午後は友人の展示会へ、京橋のお店に行く。
ポスタルコのマイクとユリさんは20年くらい前に仕事で出会ってからの友人で、ふたりのクリエーションにはいつも刺激を受ける。
懐かしい方にも会えて、楽しかった。

夜、この冬最後の酸白菜を漬ける。
コロナ禍が始まった3年前から、毎年挑戦するようになった。
何度も失敗していくうちに、今年は鍋料理にも使うことができて感動した。
自宅で時間をかけて作る酸白菜は、本当に美味しい。
蓋部分の淵に水を溜めると中が密封されるという、伝統的な形の漬物瓶もネットで探して購入した。
最初にこの構造を考えた人って、どう思い付いたんだろう!
この容器が使いたくて諦めずに続けることができたので、物好きにもいいところがあると思う。


2022年3月20日(日)

朝早く起きて、見逃していた「ドライブ・マイ・カー」を新宿の映画館で鑑賞する。
3時間の上映時間が、短く感じたくらい惹き込まれた。
観た人それぞれが解釈ができる素晴らしいストーリーで、しばらく余韻に浸る。
昔、近くで仕事をしていた頃からお気に入りの「三国一」で、夫と映画について話しながら味噌煮込みうどんを食べる。

新大久保に寄って、食材の買い出しへ。
街が混雑していたので、早めに退散。
家に戻ってお茶しながらのんびりする。

夕飯に中華鍋で、白菜と干し海老のクリームスープを作る。
コロナ以降、家でご飯が増えてから、あまり使っていなかった中華鍋で料理をするようになった。
使い慣れてみれば、炒め物は美味しく出来てスープ作りや素材の下茹でにも使えるのと、竹ブラシとお湯で洗って乾かしておけばいいので本当に便利。
中華鍋を愛用し始めてからキッチンを見直して、鉄素材や土鍋で料理をするようになった。

台湾の友人のお家に招かれた時、何かを温める時にレンジではなく蒸し器を使っていることに感心していたら、台湾では当たり前なんだそう!
彼女はテイクアウトを買いに行く時はホーローの入れ物を持参して、家ではガラスの保存容器を使っている。
自分でも気をつけている方だと思っていたけれど、まだまだ足りないことを教えてもらった。

以前は一年があっという間のスピードで過ごすことが充実した生活だと思っていたけれど、立ち止まる事ができて自分自身を取り戻せたような気持ちがしている。
知っていたつもりの東京も、歩いてみたらたくさんの発見があり毎日写真を撮っている。
本棚からヘンリー・D・ソローを引っ張り出して、また読み始めた。