RANDOM DIARY:COVID-19 東野智瑞子

コロナウィルスが存在する世界で暮らす一週間。
朝5時のアラーム。帰りを待つ小さな妖精。
チーズケーキとお取り寄せ餃子。体重は3.2kg。
部活動停止措置。スキンヘッド流血の危機。

2021年9月19日(日)

台風一過の晴天に恵まれた心地よい朝、近所でバスクチーズケーキが美味しいと評判のケーキ屋さんまでお散歩。

今日は猫好きの友人がウチに遊びに来る。
お昼には各地から取り寄せた色んな餃子を焼くつもり。皆でワイワイと外食することがなくなり、せめて美味しいものを家で食べたいという思いから、色んなものを取り寄せて家で食べる機会が増えた。

お酒が飲めない私にはわからないけど、ビールにあうイメージのつまみをスーパーで選んでいると、酒好きの友人からLINEが届いた。

『12〜13時の間にお酒がカクヤスから届くので、受け取りお願いしまーーす』

おーっと、その手があったか!
カクヤスは、ビール1本から送料無料で即日配達!という、家飲みが増えたであろう今にもってこいな商売スタイルのお店。

ウチには酒が一切ないので、いつも親しい友人を招く時には、自分で飲みたい酒持参のシステムをとっている。前回は、どっさりビールを買い込んで持ってきていたけど、確かに重そうだったもんな(笑)。
急いで買い物を終えて帰宅した。

いつも出かけると夜まで帰ってこないのに、1時間ほどで帰ってきた私に拍子抜けな猫のシャアくん、
「もぉ帰ってきたニャ?」
と言わんばかりの寝ぼけ眼でスリスリと足にまとわりついてお出迎え。

餃子パーティーの準備も完了し、シャアくんをナデナデしていると、急にシャアくんがパっと玄関の方を見る。「お、来たな。」と思った直後にインターホンが鳴った。
いつも不思議とインターホンが鳴る前にシャアくんが反応するのだ。何を察知しているのか本当に不思議。

今日遊びに来たのは、10年前に初めて南極へ行った時、行き帰りの船で部屋が一緒だった女の子。夜通し語り合い昼夜逆転生活を共にした気心の知れる大切な友人だ。同じく酒好き猫好きなパートナーと一緒に遊びに来てくれた。

神戸の餃子、北海道の餃子、大阪の餃子、色々焼いて食べ比べ。合間に、時々猫遊び。ダラダラと食べて遊んで喋り倒して、いつの間にやら夜になっていた。

普段は仕事でほとんど留守にしているため、昼間はずっと1人で寝ているシャアくん。今日は4人がかりで遊んでもらい一睡もできないまま。友人が帰ってからもしばらく興奮状態で暴れまわっていたけれど、ついに力尽き、撫でられながら寝落ちした。
寝顔に癒され私も就寝。


2021年9月20日(月)

「三連休最終日、行楽地は大勢の人でにぎわいました。」
そんなニュースを見ながら猫をナデナデ。今日も朝からいい天気だった。今日は一歩も外へ出ていない。後楽日和な青空を部屋のカーテン越しに見ながら、大好きな男の子とゴロゴロ過ごしただけの1日。

シャアくんはシンガプーラの男の子。去年のクリスマス生まれ。生まれて3ヶ月でウチにやって来た。救急病院へ一回と去勢手術で一回、キャリーに入れて外出したことはあるけれど、それ以外は一歩もお外の地面を踏んでない。シャアくんにとっては、このおウチが全世界。

私は旅行好きで、これまで約40ヵ国を旅してきた。色んな景色や動物を自分の目で見て感じたい性分。少なくとも必ず盆と正月には海外旅行を計画し、旅のために働くという日々だった。それが、海外旅行へ行けない世の中になって、目標を見失った。

朝7時に家を出て、帰ってくるのが夜の9時や10時という生活の中、
「何がたのしゅうて生きてんの?」
と自問自答。どうせ出かけられないのなら、猫でも飼おうかと思い立った。前々から猫好きな友人に、猫は昼間ずっと寝てるし留守番できるから大丈夫!と勧められていた。

半信半疑、「短毛、一人暮らし、飼いやすい、猫」で検索して出てきたのがシンガプーラだった。最初は見るだけというつもりでシンガプーラの仔猫を検索して見ていたのだが、抜群にかわいいシャアくんに出会ってしまい一目惚れ。即購入を決めてしまった。

以前の私なら、丸一日の休みなんてあろうものなら、絶対どこかへ出かけていた。なんなら弾丸旅行へも出かけていた。
私は私立高校で教員をしている。教員と言えば夏休みも冬休みもあると思われがちだが、部活動顧問を持っていると週休ゼロな日々は当たり前。だいたい平均すると月休一日あればよしというのが現実だ。そんな貴重な休日を、丸一日中ずっと家でゴロゴロ過ごすなんて、ちょっと前の私には考えられなかった。

広い世界を見たくて仕方なかった私に、狭い世界も悪くないと教えてくれたのがシャアくんだった。彼となら、狭い世界で過ごす時間もじんわりシアワセ。
そんなシアワセで平凡な休日が終わっていく。


2021年9月21日(火)

昨日と一昨日は、シャアくんとは別のお部屋でゆっくり朝寝坊したけど、今朝はいつも通りシャアくんに起こされ5時前に起床。

シャアくんと暮らし始めてから朝のアラームがいらなくなった。毎朝4時半頃からニャーニャー起こしてくれる。鳴く、踏む、噛むの三動作で確実に起こしてくれる高性能猫型アラーム。二度寝を許さないスヌーズ機能も搭載。

猫は薄明薄暮性動物らしい。明け方と日没直後の時間帯に活動する動物だそう。猫の獲物であるネズミは夜行性で、日没と明け方直前に動き出す。そんな獲物の行動に合わせた習性らしい。プレミアムキャットフードしか食べてないシャアくんが薄明の時間帯に起きる必要は全くないのだけれど。

アラームが一旦解除されるのは毎朝5時に出るようセットしてある自動給餌器からエサがジャラジャラ〜と出てくる瞬間。シャアくん、猛ダッシュで朝ごはんを食べに行く。それでアラーム完全解除だと思ったら甘い。そこからは遊んでくれニャ攻撃が始まる。思う存分遊んで疲れて眠そうになった頃合いを見計らい、私は家を出る。
家を出てからも、電車の中、授業の合間、会議の途中、常にペットカメラでシャアくん確認。ホント猫って昼間はずーっと寝てる。寝てるとわかってるけどカメラは見る。

夕方に帰宅すると、まずは20分ほどシャア謝罪。玄関を開けた瞬間から「どこ行ってたニャー!」と言わんばかりの抗議ニャーが炸裂する。

「ただいま、ただいま〜」
ナデナデ
「よしよしよしよし、いい子だったねー」
ナデナデ
「ごめんね、1人でお留守番さみしかった?」
ナデナデ
「待っててくれて、ありがとう」
ナデナデ

少しずつ機嫌をなおし、ずっと喉をゴロゴロいわせながら私の足に顔をスリスリ。
またエサをあげて一緒に遊ぶ。お風呂に入るとドアの前で出待ちされ、トイレに行くとニャーニャー鳴かれる。そして、遊び疲れて一緒に寝る。帰宅が遅く遊び足りない日には、夜中にも遊んでくれニャ攻撃を受ける。

ちょっと前までは、真っ暗で誰もいない家の鍵を開け、一言も発することなく食べて寝るだけの生活が当たり前だった。ホントに帰る意味あるのか?と思う日もあったくらい。
今は仕事が終わると一目散で家に帰る。ブラブラ無駄に寄り道して帰ることも、ゆっくり湯船に浸かり長風呂することもなくなったけど、家に帰る意味ができた。
純粋に私の帰りを待ってくれている存在は大きい。人間と違って猫は裏切ったりもしないしね。


2021年9月22日(水)

今朝もシャアくんに踏みつけられ、噛まれ、鳴かれ、4時半頃から抵抗し続け、5時に起床。そして、シャアくんが二度寝につく頃、
「いい子にしててね。今日も早く帰ってくるからね」
と言い聞かせて(聞いてるのかどうかは不明)家を出る。

ここ最近は授業だけで帰宅しているので、帰りは早い。感染拡大防止のため大阪府からの通達で部活動が基本的に停止になっているのだ。
私が勤務している学校は授業が14時55分に終わる。部活指導も会議もなければ15時過ぎには家路につける。
しかし、普通に部活指導があると、20時前くらいまで練習し、片付けや着替えを終えた生徒達が学校を出るのを待ち、学校を施錠したりして、結局帰れるのが20時半から21時前くらい。家に着くともう21時半から22時前。風呂に入って寝ることだけで精一杯な生活。朝練なんてあった日には、翌朝7時過ぎにはもう学校にいる。家の滞在時間よりも勤務時間の方が余裕で長い。なんのために生きてるのかわからなくなってくる生活だ。

部活指導があるとないとでは、使う労力や時間に雲泥の差がある。しかし、給料にはほとんど差がない。まさに、ニュースで騒がれるブラックな教員。
私が勤めて間もない頃、今から20年ほど前だろうか、ウチの学校では部活動顧問が自由制になった。実際には、「顧問は引き受けません」と言える人にだけ与えられた自由だった。昭和のスポ根時代を生きてきた(当時は)若い私に、NOという選択肢はなかった。今はNOといえる若者も多い。時代は変わったなとオバサンのように最近思う。
建前だけにしろ自由制になってしまったことで、部活動は仕事ではなく「好きでやってるもの」になってしまった。

私は高校時代に器械体操をやっていた。高校の思い出は?と考えた時、授業のことなど全く覚えてなんかない。体操のことしか出てこない。私は常にその時々を愉しんで生きているつもりだけど、どこかの自分に戻れるとしたら、迷わず高校時代に戻りたい。夢中で体操に打ち込んでいたあの頃の自分が無条件に輝いていたと思えるのだ。お金を払って習う習い事や、やらなければいけない何かではなく、ただただ夢中に上手くなりたいと思って頑張ることなんて、学生時代のクラブ活動でしかなかったなと思うのだ。
休日がなくても、家の滞在時間が激短でも、やっぱり何かに夢中で打ち込んでいる生徒達の姿を見ると感動してしまう自分がいる。不満はめちゃくちゃあるけれど、「好きでやってる」んですよね?と聞かれたら、ヤケクソ半分に「悔しいけど嫌いじゃないですね!」と言うだろう。

このコロナ禍の部活動停止措置のおかげで、労働負担的にはかなり楽をさせてもらっている。しかし、15時過ぎくらいに学校を出る帰り道、「なんか、スカみたい…」って思うのも事実。授業だけやって帰る、めちゃくちゃ楽なことに間違いないのだけれど、なんだかモヤっとする気持ちが残る。仕事はスカみたいだけど、シャアくんと一緒にいられるのはシアワセ。 楽で複雑な毎日。


2021年9月23日(木)

今週は祝日が沢山あって余裕な1週間。普段なら日曜も祝日も部活指導で仕事だけれど、コロナのおかげでゆっくりさせてもらっている。
しかし、朝寝坊はできない。日曜だろうが祝日だろうが容赦なくシャアくんの強烈アラームで起こされる。今朝は一段と早かった。
早起きすると色んなことができる。朝から部屋を拭き掃除して、洗濯も2回できた。シャアくんともいっぱい遊べた。

今日は職場の友人とランチ。彼女も猫好きで、シャアくんもよく遊んでもらっている。ランチの後は、今日もシャアくんに会いにウチヘ来てくれた。
2時間程で帰宅したため、玄関を開けてもニャーとも言わない。爆睡真っ最中だった模様。靴をぬいだり、手のアルコール消毒をしたり、ガサゴソしていると、やっと眠そうな小さなニャーが聞こえてきた。

シャアくんは、好奇心旺盛でとても人懐っこい性格。我が家に来た客人は皆、まず足のにおいチェックを受け、肩に飛び乗られ、髪の毛をひっかきまわして遊ばれる。投資用マンションの購入契約のためウチに来てくれた不動産会社のお兄さんも例外ではなかった。何枚もの書類にハンコを押しているスキンヘッドのお兄さんの肩にシャアが飛び乗った時にはハラハラした。お兄さんの頭が流血する前にすばやく捕獲。

日曜日からの寝不足を引きずり、疲れ気味なシャアくん、また今日も睡眠不足気味のまま2人がかりで遊ばれクタクタ。22時過ぎには自ら大人しく自分のベッドへ入っていった。いつもは、寝るよ!と言って電気を消してもまだ走り回ってたりするのに、よっぽどお疲れのご様子。余裕な1週間を過ごす私とは裏腹に、シャアくんにとってはハードな1週間になったよう。


2021年9月24日(金)

昨夜はあまりにもすんなり早めに寝てくれたこともあり、今朝の猫アラームは4時から激しく作動しまくりだった。いくら激しく足を噛まれても5時のエサ出しは譲らない。これを早めたら、今度は3時頃から起き出すかもしれない。恐ろし過ぎる。

シンガプーラは大人でも2〜3kgにしかならず、現存する純血種の中で世界最小の猫らしい。別名「小さな妖精」とも言われる。ウチの小さな妖精はすでに3.2kg。運動能力抜群で筋肉ムキムキ。めちゃくちゃ食いしん坊な妖精だ。エサ出せアピールも激しく、自動給餌器にガンガン鼻頭突きをくらわせる。蹴ってみた自動販売機から100円が落ちてくるように、たまにカランと2粒くらいのカリカリフードが落ちてくる。それを狙ってか、空腹時の頭突きは、顔の形おかしくなるんじゃないか?というほどものすごい。

ブリーダーさんから、「しばらくは成長期なので、食べたい時に食べたいだけ与えて下さい」と言われ、自動給餌器の前にシャアくんが座るたび、ジャーと気前よくあげていた。
もともとシャアくんは他の兄弟達よりも小さい子だったらしい。ウチヘ引き取る時、ブリーダーさんから900gを超えないと渡せないと言われ、大きくなるのを心待ちにしていた。ウチヘやって来た当初は1kg弱の、まさに小さな妖精だった。それからすくすくと、やや成長し過ぎた。今はシンガプーラの基本体重をギリギリキープするため、低カロリーのフードを給餌回数も考えながら与えている。自分の体重以上にシャアくんの体重を気にしている。

私は3年ほど前、南極地域観測隊として南極で暮らしていた。南極料理人の作る美味しい三食を毎日食べさせてもらい、しっかり成長して帰ってきた。帰国後はまたブラックな教員生活が始まり、夜遅く帰って食べることくらいしか生きがいなしという生活の中、体重は増えっぱなしのままだった。

それが、去年の4月〜5月、一斉休校となったことをキッカケに生活改善できた。部活動どころか、授業もなくなり完全在宅。あまりにも急に自由時間が増え過ぎて戸惑った。ダラダラと家にいるだけでは食べるだけだし、以前通っていた加圧トレーニングでも再開してみようと思い立ったのだった。最初は自重が恨めしく死にそうなしんどさでビビったけれど、続けて通っているうちに筋力もつき、遅い時間に夕食を食べることがなくなったこともあって、体重は南極前くらいにまで戻っていった。トレーナーさんとマンツーマンでトレーニングするスタイルなので、感染のリスクも低いと思われる。今もだいたい週に二回通っている。

今日も帰り道に加圧トレーニングへ。昨日のランチのように美味しいものを食べに行ったりしても、加圧トレーニングしてるしと自分に言い訳ができる。実際、食べてもさほど体重増加しなくなった。コロナ禍の影響で太ったという人もいるけれど、私はコロナ禍のおかげで健康的に痩せることができた。
今は自分の体重よりシャアくんの体重が気になって仕方ない。


2021年9月25日(土)

今日から部活指導が再開した。大阪府からの通達には、大会やコンクールへの出場と、それに向けた短時間の活動は認められるとあることから、ウチの学校では大会3週間前からの活動が許されている。私が受け持っているチアリーディング部は10月に大会があり、それに向けた練習を再開させることになった。
とはいえ、平日2時間、休日3時間までの時間制限はあるので、緊急事態宣言の期限である今月末までは、まだ比較的まともな生活が続く。10月からの生活がどうなっていくのか不安。

コロナ禍における部活動停止措置は、ある意味、私にとって強制的働き方改革だった。夕方に帰って日曜は休むというまともな生活を味わったぶん、以前のようなブラック労働生活に戻って耐えられるのか、かなり心配。

生徒達の部活動は3年で終わるけど、私は定年退職まであと12年。どこまで一緒に付き合えるだろうかとよく考える。部活動のないコロナ禍の働き方なら80歳くらいまで余裕で働けそうなんだけど。

そして、やっと時間に余裕ができた頃、シャアくんは私とまだ一緒にいるのだろうか。もう、おじいさんだろうな。
広い世界を見に行くことができなくても、大好きなコと一緒に過ごせるのなら、なんでもない毎日がきっとシアワセ。狭い世界で生きる猫に教わった。

これからどんな世の中になっていくのだろう。私はどんな老後を過ごしているのだろう。ピチピチの女子高生達の踊る姿を見ながら考えた。