RANDOM DIARY:COVID-19 伊藤史子

コロナウィルスが存在する世界で暮らす一週間。
ジューサーの中のバジルソース。
水と戯れるこどもの手。アアルトのテーブル。
苔の庭。ワッフルを焼く朝。とんだりもできる。

2021年8月1日(日)

起きる。カーテンを開けて窓を開ける。ベッドに戻って少しごろごろしながら、朝を感じる。1ヶ月前に引っ越してきた部屋は、窓が大きくて光をたくさん感じられる。なんだか生活の具合がよい。

直火型のエスプレッソマシーンでコーヒーを入れる。洗濯機をまわし、掃除機をかける。ベッドの下を覗き込み、なんで埃がすぐ現れるのか疑問に思う。思うだけで、深く考えることはない。でも、引っ越してきてから、掃除のしやすさ、片付けやすさ、生活のしやすさについては丁寧に考えている。まだ、全てのものの配置が決まっていないのだけれど、それらを既存の収納に収めるか、新しく家具を買うか、ちょうど良いサイズのものを自分で作るか…。慎重に考えすぎなのか、考える想像時間を楽しんでいるのか、私の部屋はまだまだ未完成である。

友人とその娘と家で夕飯を食べる。今日のメニューはハンバーグとジェノベーゼパスタ。バジルが安かったので、このメニューになった。バジル、松の実、ニンニク、オリーブオイルを入れて、ジューサーにかける。友人の娘がはしゃいでいる。小さなジューサーにはバジルが多すぎて、何回かに分けなければいけない。だんだん滑らかなソースになっていく過程が面白い。ボウルの中で、削ったパルメジャーノチーズと合わせる。ヨーダと同じ色のソースができたと親友が写真を撮ってはしゃぐ。愉快な日曜日。


 
2021年8月2日(月)

引越ししたてで、久しぶりにインテリアに心が動いている。仕事帰りに表参道のシボネに行く。小学生か中学生の頃、叔母が青山にあったシボネに連れて行ってくれた。その時、「ここには日本で一番新しいデザインがある」と言われたのを覚えている。その後、大人になった私はオランダの大学院に留学し、シボネを代表するようなデザイナー達の影響を色濃くうけた。ここに来ると、その不思議な繋がりを思い出す。

オランダのデザイナーはなんとも面白い。彼らは、既存の価値観に疑問を投げかけてくれる作品を作ることが多い。日常の当たり前になってしまったもの、人々が価値がないと思って通りすぎてしまうものの、新しい「美」の価値観を教えてくれる。批判的であったり、ユーモラスであったり。

幼いこどもたちは、まるでオランダのデザイナーのようだといつも感じる。彼らにとっては、当たり前や常識なようなものはまだ構築されておらず、自分がどう感じ、どうしたいかで世界の価値を見出し、構築することができる。(大人がそれを邪魔しなければ)彼らは実験的で、本質的かつ革新的思考を持っている存在である。

帰りにナチュラルハウスに寄る。ここ数年、気に入っている梅シャーベットを発見し3袋買う(友達の分も)。夏は暑いがアイスが美味しい。


 
2021年8月3日(火)

7時起床。こども園のアトリエリスタの仕事に行く。先週まで0歳児の「紙との対話」に携わっていたが、今日は2歳児の「水との対話」を覗きに行く。こども達は、誰の指示も受けずに、すごい集中力で、大小様々な容器から容器へと水を移し替えていく。そこには、大きさの違い、分けること、変化、重さ、勢い、流れ、音、温度、光など、様々なものとの出会いが見てとれる。日常の何気ない一コマとも見えるが、彼らの視線の先に、彼らの見出している美を見つけ、私もハッとさせられる。穏やかだが熱い時間が流れている。

昼寝時間に、活動の写真をプリントし、整理して分析する。<水・容器・色>と<こども>との出会いで何がおこっていたのか、こどもたちはどんな美を見出していたのか、どんな可能性が発見できるのか、注意深く観察する。こどもたちをリサーチャーと捉え、新しい未来への可能性を一緒に模索することがとても楽しい。


 
2021年8月4日(水)

今日も暑い。こども園のアトリエ の仕事の日。コロナ禍でお祭りや花火は中止となっているが、「夏」を感じる何かをこども達や保護者に味わってほしいと、先日スタッフ同士で話していた。玄関に氷を置いておくとか、水風船とか、なんでもいいから何か「夏」や「涼しさ」を感じることをしたいねと。 そこで今日は、「涼しさ」を感じる顔彩(日本の固形絵具)の色々と3歳のこども達との出会いの環境を設定する。筆と水と画用紙も用意する。

日本の伝統色には四季の色がある。夏薫る初夏の空、雨に濡れるつややかな花や草、清冽な川に映る空など。今日集めた色は、伝統色をもとに、私が涼しいと感じた色を集めたのだが、こどもたちには特にそのことは説明しない。彼らにはただ、筆の洗い方と絵の具の付け方を教える。私の仕事は、教えることではなく、出会いの環境をセッティングすることだと思っている。彼らはその中で、心と身体を使ってそこにあるモノとの対話をしてくれたらいい。

「そらにこれる。あそべるところ。とんだりもできる。」「しょうぼうしゃと、みずがでているの。」「うみのあおいのがすき。」「うみみたいにおおきい。つんつんで、おみず。」「しんかんせん。」「ながれるぷーる。」今日もそれぞれのこどもたちの表現の声が聴こえている。


 
2021年8月5日(木)

午前中、表参道のアルテックで購入したアアルトの75センチ角のテーブルが届く。梱包してある姿は、思ったよりもコンパクトな印象。開けて組み立てたい気持ちが山々だったが、とりあえず仕事の打ち合わせに出かける。

18時すぎに帰宅する。早く夕飯を食べたい気持ちもあるが、やはり新しい机を組み立てずにはいられない。とりあえず、ビールを飲みながら、箱を開ける。作り方の説明書が見当たらないので、ネットで調べる。4本の脚をそれぞれ三箇所ネジで留めるだけのシンプル構造。思ったより簡単に早くそして美しくできあがる。

コンパクトなボリュームと、脚の丸みが可愛い。工業製品のシンプルさの中に、なんとも言えない可愛らしさがあって、まだ使っていないのに、すでに愛おしい気持ちが湧いてくる。正方形のテーブルを使うのは初めてなので、色々試してみたくなる。2脚の椅子を向かい合わせに置いても、角を囲む2辺に置いてもしっくりくる。机の形とサイズ感は、一緒に机を使う相手とのコミュニケーションの距離やかたちに大きく関係してくると考える。この75センチ角の、ちょっと小さめなサイズ感がとてもいいような気がする。

天板のホワイトラミネートが品の良い温かみを放つ。ラミネートの端の終わり方の、木材のバーチ材と繋がるところの丸みや角の見え方・角度が優しく気持ちよい。

ランチョンマットを敷く。スパークリングの白を飲みながら、砂肝のコンフィと酸っぱめのドレッシングでサラダを食べる。美味しくて幸せな気分。


 
2021年8月6日(金)

親友家族と軽井沢へ行く。祖母が大切にしていた庭は苔が美しく、久しぶりに木漏れ日の温かさを感じる。ここにいると人間も自然の一部だと思い出す。

普段やらないようなBBQを張り切ってみる。炭に火をつけるだけで、なんだか自分の中に生きる力がありそうな気がしてくる。(着火剤を使っているが)とうもろこしが甘い。じゃがいもがホクホクしている。肉はとてもジューシーに焼けた。

親友の娘がマシュマロを焼き、クラッカーに挟んで食べる。「トロけ具合が天才的に美味い!」とみんなではしゃぐ。 食後に手持ち花火をする。歌って踊って花火をする。ずっと笑い転げている夜。


 
2021年8月7日(土)

朝起きる。コーヒーを飲みながら、朝食をどうしようか考える。非日常らしく、高校生の頃に買ったワッフルメーカーを取り出してくる。たまにしか登場しないけれど、何やら外国製のゴツくて立派なワッフルメーカーである。インターネットショッピングがない時代に、どこでいつ買ったのかは覚えていない。ただ材料を混ぜて焼いただけなのに、みんなが褒めてくれる。親友がネクタリンを剥いてくれた。そしてそれを、とても綺麗に皿に並べる。軽井沢にくるといつもネクタリンを食べる。祖母がいつも買ってくれたことを思いだす。熟しすぎるとジャムも作ってくれていた。

自転車に乗ったり、散歩をして午後を過ごす。雨が降ってきたので、夕飯は部屋の中で食べることにする。

親友がおつまみを作っていると、お腹がすいたみんながつまみだす。今晩はカウンター形式で夕飯をする。キッチンの脇で、作った側からみんなで食べたり飲んだりしていくというスタイルである。締めに出てきた、BBQの残りの肉で作ったガーリックライスがとても美味しい。楽しくて、うっかり親友を働かせすぎてしまった。