RANDOM DIARY:COVID-19 木戸美由紀

コロナウィルスが存在する世界で暮らす一週間。
三度目のロックダウン。パリの空の下、納豆を作る。
愛車との別れ。セーヌ河沿いのアパルトマン。
リーバイス。深夜の試着。10年目のHOPE&LOVE。

2021/4/4(日)

 先週は初夏のような天気だったのに、今朝の気温はマイナスだ。午前中は家にこもって、餃子の皮を作ることにしよう。餃子は大好物のひとつ。コロナ禍の外出禁止令により、家時間が増えたので、皮から作りたい、と昨年春から試作を繰り返している。でも、なかなかうまくいかない。粉の種類を変えたり、寝かせ時間を変えたり、水分量を変えたりと、試行錯誤は続く。

 ここパリでは、2020年3月から通算、3回のロックダウンが行われた。3回目は今年3月20日から、パリなど感染者が多い地域に限り施行され、フランス全土では昨日、4月3日からロックダウンが始まった。解除は4週間後の予定だ。

 そのニュースを聞いたとき、またか、と憂鬱な気持ちになった。とはいえ、初回に比べると規制はゆるい。初回は学校がクローズ、オフィスも軒並み閉まったが、今回、小中学校は授業を行ない、会社へ通勤する人も多い。19時から翌6時までは外出禁止で、違反者には罰金が課されるが、それ以外の時間は外出証明書を持たずとも、自宅から10キロ以内なら、自由に出かけることができる。

 昨春のロックダウンで、外出が許可されたのは自宅から1キロ以内、時間は1時間以内と制限された。警察による取り締まりも厳しく、外出時間を明記した外出証明書と、身分証明書を携え、緊張しながらスーパーに通ったものだ。1回目のロックダウンは10月末から始まり、私は初日に警官のコントロールにあった。今回は、自分も周りの友人も、1度もコントロールにあっていない。警官に呼び止められると、別に悪いことをしていないのに、緊張でどっと汗が出る。コントロールがないだけ、今回のロックダウンは気楽かな、とは思う。とはいえ、10月末からレストランの営業禁止が続行中だ(テイクアウトのみ営業可能)。食べることが何より好きな私にとって、レストランに行けないのはたいへんつらい。

 今回の餃子皮には、タピオカ粉を入れて、寝かせ時間を多くしてみることに。こねながら、もちりとした触感に手応えを感じる。今回はうまくいきそう。寝かせを終えた皮を伸ばす。柔らかすぎず、固すぎず、扱いやすい。これはいいかも。とりあえず60枚伸ばしてから、お昼ご飯を食べて、クラシックバレエのレッスンへ向かう。

 レッスン後、うちに餃子を食べに来ない?とクラスメイトを誘ったら、5人も遊びに来てくれた。この人数で飲むのは久々だ。食べも飲みも盛り上がり、餃子は100個以上焼き、ワインも10本以上飲んだ。

 気づいたら深夜、明かりのついた部屋で一人、洋服のままで寝ていた。みんなもかなり酔っていたが、外出禁止が始まる19時までに、無事、帰り着いたのだろうか。


2021/4/5(月)

 日本に帰るとほぼ毎日、家電量販店に行く。フランスのものより日本の家電の方が、サイズは小さく使いやすいし、機能も高いように感じる。各フロアを回って、どの家電をパリへ連れて帰ろうか、と思案するのも楽しい。

 最近、活用している日本製の家電は、ヨーグルトメーカーとグリル鍋。ヨーグルトメーカーは納豆を作りのために購入した。今まで、アジアスーパーで冷凍納豆を買っていたが、苦さと豆の硬さが気になるようになった。手作り納豆は口当たりがふわりとし、優しい味がする。

 グリル鍋は、鍋パーティ用に便利かな、と買ってみたが、たこ焼きプレートが活躍する。コロナの影響で、大勢で鍋をつつくのはしばらく難しそうだ。たこ焼きのほかは一人鍋をしたり、点心を蒸したり。焼肉は、火力が強すぎて焦げてしまった。クッキングシートを敷けば、焦がさずに焼けるらしい。今度試してみよう。

 次は電気圧力鍋が欲しい。鶏を一羽、圧力鍋で火入れして、表面をオーブンで焼くと美味しいそうだ。先週からほぼ毎日、電気圧力鍋のサイトやレシピを眺めては、買うか、買うまいか、思案している。

 そんな話を今日、仕事でご一緒したカメラマンさんに話したところ「使っていない電気圧力鍋があるから、差し上げます」と言われ驚いた。ささやかな願いが、神様に通じたのかしら。


2021/4/6(火)

 夕方、電気圧力鍋を試運転。冷蔵庫の残り野菜を片付けたかったので、鶏のポトフを作ることにした。塩胡椒した手羽元をオリーブオイルで炒め、セロリ、キャベツ、ニンジン、カブ、ネギを投入。白ワイン、水、ローリエ、生のイタリアンパセリとコリアンダー、野菜のブイヨンを加え、タマネギにクローブを差したものを上に乗せたら準備OK。加圧5分のセットをして、入浴。

 お風呂から出たら、すっかりポトフができていた。スープの味もいい。野菜からいい出汁が出て、塩を加えなくても十分おいしい。皿に盛り、粒マスタードを添えていただいた。鶏肉はほろほろ、根菜はふっくらとした仕上がり。ワインはブルゴーニュの白、サン=ヴェラン。リーズナブルなのに、コクがあってフルーティ。ポトフにぴったりのワインだ。

 デザートにブリーチーズと36ヶ月熟成のコンテを食べたら、お腹がいっぱいで、22時前なのに眠たい。夜間外出禁止が始まってからというもの、就寝時間が早まり、朝は5時頃目が覚めてしまう。布団にもぐって、読みかけの本を開いたが、5分も経たないうちに、本を持つ手に力が入らなくなった。目を閉じて、明日の夕飯に何を作ろうかな、と考え始めたら、メニューが浮かぶ前に闇が訪れた。


2021/4/7(水)

 パリ市の環境保護政策で、ここ数年、車道の一部をサイクリング道路にする工事が進んでいる。市内を東西に走る幹線道路、リヴォリ通りは、バス、タクシー以外の車両の走行が完全禁止となった。そのため、もともとひどかった渋滞が更にひどくなり、移動はメトロの方が数倍早い。2009年に知人から格安で譲ってもらった愛車、ルノー・クリオの出番は、ほぼなくなってしまった。

 以前は荷物を運んだり、近郊に出かけたりするのに愛用したが、昨年はほとんど乗る機会がなかった。知らない人に売るのも面倒なので、次の車検を迎える前に、廃車にすることにした。調べたところ、廃車は無料。さらにパリ市から400ユーロの補助金がもらえるらしい。

 ここ10年ほど、車検と修理をお願いしている、カンボジア人の修理工に、廃車場について教えてもらうため電話を入れた。すると、息子の彼女が車を盗まれたので、ルノーを売って欲しいという。そこで息子に、車の価格を補助金と同じ400ユーロでどうか、と提案したら、車検代を引いて350ユーロにしてほしい、と交渉された。交渉を重ねるのも面倒なので、それで手を打つことにした。

 今日は車の引き渡し日だ。手続きの書類に記入をし、お互いサインをして、車検証にVENDU(売却済)と大きく書き、日付と時間、サインを入れたら終了。元・愛車はパリ郊外の、修理工の息子の家に去っていった。

 廃車にしようと思った車なのに、いざ、いなくなると、とてもさみしい。そばにいるのが当たり前だと思っていた、家族や友達が、遠くに行ってしまったような空虚感だ。あの車で、色々なところに行ったなあ、ブルターニュ、ノルマンディ、シャモニー……。

 元気がないときは、赤肉でエネルギーを補給する、と決めているので、肉屋で牛サーロインを500グラム、切ってもらった。昨夏、ブルゴーニュのドライブ旅行で買った赤ワインを開け、飲みながらステーキを焼く。厚切りの牛肉は、ごく弱火でゆっくり、スプーンで表面に油をかけながら焼き、アルミホイルで包んで休ませた後、強火で表面を焼き付けると上手に仕上がる。ステーキを噛み締めるとじゅう、と肉汁が出る。よし、成功。口当たりの柔らかい、フルーティなワインを飲みながら、葡萄畑が広がるブルゴーニュの丘を懐かしく思い出した。


2021/4/8(木)

 先々週から楽しみにしていた、ヘアスタイリストの友人、Aさん宅での寿司ランチ。もう一人の友人、Rさんとオペラ座近くの和食店「たから」で待ち合わせをし、予約した寿司をピックアップしてから、Aさんの家へ向かう。最寄駅は9番線の終点、ポン・ド・セーヴル。パリの西側にある、郊外のベッドタウンだ。駅を出ると、坂茂建築の銀色のミュージックホールが、太陽を受けて輝いていた。

 Aさんの家はセーヌ河沿いに建つアパルトマンの9階で、とても景色がいい。窓際にダイニングテーブルを置き、寿司をいただくことにした。久しぶりの寿司。たからの寿司はネタが新鮮で、ご飯もおいしい。三人とも、味わいながらゆっくり食べた。お酒はシャンパン、日本酒、白ワイン、そしてまたシャンパン、と、こちらはかなりスピーディに進んだ。

 夕方にそろそろ帰ろうか、と腰を上げると、Aさんが、リーバイスのデニムをもらってくれないか、と言う。最近痩せたため、サイズが合わなくなったそうだ。彼女は私よりやや小柄で、ヨガの熟練者のためかスタイルがいい。恐る恐るはいてみると、ジャストサイズ。ネイビー、白、黒など色違いで6枚も持たせてくれた。

 コロナ禍で太ったという人は多いが、私は痩せた。実は、ロックダウン前までの生活がひどすぎたのだ。夕飯をとるのは、原稿書きや、事務仕事を終える22〜23時頃。それから料理を作るのも億劫なので、最寄りのスーパーに駆け込んで、ピザやローストチキンを買い、温め直して食べる。撮影コーディネートの仕事では、日本から来るスタッフと約1週間、昼も夜も外食。そんな日々を2年続けたら、過去最大の体重になったが、忙しさにかまけて、鏡も体重計も無視して暮らした。

 ところが昨年、外出禁止令が始まり、とつぜん暇になった。そこで1時間の外出許可時間に、ジョギングを始めたところ、体力がつき、体が締まってきた。さらに食事の内容を見直したら、するすると体重が落ちた。5月のロックダウン解除後は、食事に気をつけつつ、週3回、バレエのレッスンに通ったところ、1年で20キロの減量に成功した。今まで何度も、短期決戦のダイエットに挑戦し、リバウンドを繰り返したが、食事の見直しと定期的な運動を長期的に続ければ、無理なく痩せられるのだな……と今さらながら、気がついた。

 帰宅後、横になったらそのまま寝てしまい、目覚めたら深夜だった。静かだ。目が冴えたので、電気をつけて、いただいたデニムを全部はいてみた。どれもよく似合い、しかも痩せて見える。脚長効果も抜群。リーバイスのデニムは、学生の頃に試着したことがあるが、生地が硬くて着づらく、太ももがしっかりした自分の体には、ちっとも似合わなかった。最近のリーバイスの生地は、薄めでストレッチが入り、はきやすい。新たな発見だ。

 今週は、いい物をいただく機会が多くて嬉しい限り。


2021/4/9(金)

 「HOPE &LOVE」は、東北大震災の被災者の方々を支援するために、パリと東京で開催されるチャリティイベントだ。洋服やファッション雑貨のフリーマーケット、人気シェフによるフードの販売、ワークショップなどを行い、毎年たくさんの方にご参加いただいているが、昨年はコロナの影響で開催を見送った。

 今年はイベントの10周年記念ということで、4月10日、11日の週末に、初のオンラインイベントを行うことになった。私の担当は、中村江里子さんと雨宮塔子さんのトークショーや、サルトルとボーヴォワールがオフィスがわりに使ったという「カフェ・ド・フロール」の唯一の外国人ギャルソン、山下哲也さんのトークショーのお手伝いだ。

 ここ2週間、演者さんやスタッフと激しくやり取りが続き、特に幹部のスタッフは、本来の仕事に集中できなかったのではないかと思う。ボランティアだから無理せず気楽に、というのが団体の姿勢だけど、スタッフにコーディネイターやジャーナリストが多いせいか、みんな仕事熱心で真面目。準備期間が短かったこともあり、猛スピードで準備が進んだ。

 今日は夕方からスタッフが会場に集まり、黙々と準備に励んだ。団体から外出許可書を出してもらったから、外出禁止の19時を過ぎて帰宅しても、今日は大丈夫。21時過ぎに準備を終え、解散。会場を出たら雨が降っていた。

 久々に帰宅が遅くなった疲れと、空腹のせいか、薄暗いメトロに乗ると、どうにも気分が暗くなった。こういうときはまず、熱いお風呂に浸かろう。夕飯は冷凍してあるクリームシチューをグラタン風に焼いて、デザートは最近お気に入りのチーズ店で買った、ブリア・サヴァラン、ブリー、モンドールを盛り合わせた、チーズプレートにするかな。
 好物のグラタンとチーズでお腹が満たされたら、すっかり幸せな気持ちになった。我ながら単純だなあ。


2021/4/10(土)

 「HOPE &LOVE」初日。パリのコンテンツの幕開けは、中村江里子さんと雨宮塔子さんのトークショーだ。スタッフは9時に会場へ集合。打ち合わせと通信関係のテストを行った。

 10時前に雨宮さん、続いて中村さんが到着すると、会場の雰囲気が一気に華やかになった。お二人はリラックスしていて、カメラやモニターがセッティングされた仮設スタジオを見て「こういう仕事場の雰囲気、久しぶり」と喜んでくださった。

 このトークショーのチケットは、100人限定で販売され、完売した。今回のイベントで一番人気のコンテンツだ。10時半ぴったりに放映がスタートし、私を含め、5人のスタッフはパソコンに向かい、ご参加いただいた方からチャットで届く質問に答え、トラブル対処にあたる。いきなりトラブル発生。中村さんのマイクだけ、稼働しない。接続の問題だったのか、15分後に音声が回復した。

 このトラブルに対するクレームが、参加者の方から続々と入ったため、1時間予定のトークショーを15分延長することに。お二人はパリでの暮らし、コロナ禍の生活、子育て、家族について、あらゆるテーマについて楽しく語り、スタッフの私たちも仕事をしながら聞き入った。

 トークショーの後も中村さんと雨宮さんは、お話が止まらず、スタッフも交え、わりと長い時間をスタッフルームで過ごした。帰り際に、本当に楽しかったので来年も是非参加させてください、次回はマグナムのシャンパンをお持ちするので乾杯しましょう、と言って下さり、その場にいたスタッフ一同、感激してしまった。

 ランチは「Donmerci」のどんぶり弁当。おかずはチキンカツ、鯛の塩焼き、豆腐ハンバーグからのチョイスだ。揚げ物好きなもので、迷わずチキンカツを選んだ。ここのお弁当は野菜が10種類以上入り、量が多いのがいい。今日はボランティアスタッフのために、おかずをぎゅうぎゅうに入れたよ、とお弁当を届けにきた、料理人のMさんが教えてくれた。

 よほどぎゅうぎゅうに入れてくれたのだろう、どんぶりの上に乗っているおかずしか食べていないのに、お腹がいっぱいだ。残ったご飯は持ち帰って、今夜、手作り納豆と一緒に食べよう、とエコバッグにお弁当をしまう。

 明日は、カフェ・ド・フロールのギャルソン、山下さんの無料トークショーがある。トークショーはYouTubeチャンネルで放映されるが、私も山下さんのお相手役として、トークショーに出演することになった。衣装はギャルソン風に、シャツと黒いパンツにしようかな。帰宅したら夕飯の前に、シャツにアイロンをかけよう、と考えながら、パソコンのモニターに向かった。