『Last Year When the Train Passed by』 黃邦銓監督(2018年)

『Last Year When the Train Passed by』 黃邦銓監督(2018年)

 「去年、電車からあなたの家の写真を撮りました。その時、何をしていましたか?」

 台湾を舞台に、黃監督自身が1年前に電車から撮影した写真を携え、家々を訪問する短編ドキュメンタリー『Last Year When the Train Passed by』(去年 電車が通ったとき)。黃監督は台湾でグラフィック・デザインと写真を、フランスで映画を学んだ人物。17分余りの本作には色調を抑えた情景写真と映像に、会話の音声と環境音、音楽が折り重なっており、ドキュメンタリーでありながらも、意図せぬ微睡みの中で見た短い夢のような、非日常の心地を観客に味わわせてくれる。

 黃監督の訪問を受けた人々は、1年前の出来事から始まり、この1年間で変わったこと、変わらないこと、そして1年前に至るまでの人生について語る。本作の主題は日本の「もののあはれ」。決して波瀾万丈ではないけれども、1年前と変わらぬ土地で生活を送る人々が対面した大小の人生の出来事が収められている。彼らの回想を包む音楽は、台湾のミュージシャン、林強によるもの。悠久の時の流れを彷彿とさせる音色によって、一人一人の過去が大きな時の流れに合流してゆくかのように感じられる。林氏と黃監督は台北現代美術館に展示された映像インスタレーション『Incomplete Memories』(不完全な記憶)も共同製作している。

 車窓から見える無数の家々。その姿は一瞬で地理的にも時間的にも後方に過ぎ去って行くが、黃監督は本短編の最後に、家々を宇宙的な美しく壮大な姿に変身させて観客の心に置き残し、現実の世界へと送り出してくれる。この作品を見てからというもの、電車に乗る度、窓から目が離せなくなってしまった。

 Last Year When the Train Passed By / Trailer https://youtu.be/u8XiuIDw67E