区役所の出張所を出ると朝からの小雨は止んでいた。
「元気でね」
「君もね」
「ほら目の前にレコード屋さんがあるじゃない、行きなさいよ笑」
僕は心の中を見透かされたような気持ちになって次の言葉が出てこなかった。
「レコードが好きでしよ?行ったらいいのに」
「そうだね、そうするよ」
「じゃあね」
「じゃあね」
商店街から駅に向かう曲がり角で彼女は何度も大きく手を振った。僕も同じようにしていたはずだ。
通りを渡りレコードショップに入る。こんな時に素敵な盤に出会えるはずもないと思いながら、何の気無しに中古レコードの並んだ箱を見渡すと、それはすぐに目に入った。以前からCD盤では持っていて、とても好きなジャケットなのでアナログ盤でも欲しいとずっと思っていた一枚。
それ以上は何も探すことなく会計を済ませて、彼女のいなくなった馴染みの商店街を通り過ぎて家に戻った。
イザベル・アンテナ「巴里の憂鬱(DE L’AMOUR ET DES HOMMES )」。
愛を歌うシャンソン。明るい曇り空のように気持ちをフラットにする5曲の短編。