第七回 美術館の空気を楽しむ
原美術館は東京・品川にある私立美術館であり、宮島達男、奈良美智など多数の現代美術のコレクションを抱える。1979年の開館以来、現代美術を専門的に扱う美術館として、コンパクトながら貴重なコレクションとユニークな企画展で独特な存在感を放ってきた。僕自身は初めて訪れたのが、90年代後半だと思うが以降何度足を運んだか数えきれない。
その美術館が2020年に閉館するそうだ。理由は建物の老朽化および、建て替えの法規制上の困難さだそうだ。1938年に実業家・原邦造の邸宅として建てられた建築は、竣工から実に80年となる。緩やかにカーブを描く廊下から各ギャラリーへと通じるデザインが特徴的でとても心地よい空間だ。
僕は昨年末にもここを一度訪ねている。3歳になる子どもを連れての鑑賞だったこともあり、足早に企画展をまわり、何度観たかわからない常設作品を改めて鑑賞した。子どもの目当ては中庭だったようで(1~2歳の時に一度きている記憶があるらしい!)、小雨の降る中を何度も走り回って遊んでいた。
その姿を眺めながら、僕は、閉館のニュースに加え、学生の頃から通った美術館に子連れで訪れていることも手伝って、少しのノスタルジーに浸っていた。幾度となく鑑賞した「現代美術」はもはや古典的に目に映り、美術館を訪ねる理由は「作品」のみが持っているわけではないのだと改めて考えた。原美術館の空間で過ごす時間が好きだったのだ。
美術館の建築には名建築と呼ばれるものが多い。「文化」の爆心地たるアートのためにデザインされた空間は、その存在自体が周辺のコミュニティに多大な影響を与える。それは時に土着を超えた影響になるほどだ。言い換えれば、作品や展示にかかわらず建築(が内包する空間)自体に、訪ねる価値がある施設が多いということでもある。
家に居ながらに何でもできる時代になってきた。検索すれば大概の美術作品も観ることができる。それでも美術作品を展示するための空間と、作品が織りなす「空気感」は家では体験できない。それを肌で感じるためにこれからも足繁く、僕は美術館に足を運ぶだろう。
その点から言うと、東京に暮らす僕には、「箱根彫刻の森美術館」も魅力のある美術館のひとつだ。彫刻作品を美術館で観るたびに「触ってみたい」と思うのだが、そこは野外美術館、触れる作品も結構ある(※触ってはダメな作品も多い)。帰りに温泉に浸かって帰るのも良い。ロマンスカーでビール飲んだりしつつ…。この場合建築は関係ないか。