私のかけら 56  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

最近考えていること・2 星を見る

多忙だった二月が終わり、今月は落ち着いて机に向かえると思っていたら、伯父が亡くなったりして、相変わらず慌ただしい日々を送っている。
悲しいことばかりではない。嬉しいこともいくつかあった。映画も時々見ているし、買い物もしている。旅行にも出かけた。そういえば、ミュージカルも一本、観に行った。美術と音楽が素晴らしい作品だった。
それでも心の隅に寂しさが巣食っている。それはきっと、高齢になった母の身辺整理を手伝っているからだと思う。物の整理は妹、手続きの類いは私。話し合ったわけでもないのに、なんとなく分担ができている。

先日も母と一緒に証券会社へ行き、母が担当者と会わずとも、私が代理で手続きが取れるようにするための届けを出した。顔を合わせるのもこれが最後と思ったのか、母は担当者に「長い間、お世話になりました」と言い、軽く頭を下げていた。「いろいろ手続きが面倒になってきたから、お姉ちゃんが代わって」――それが母の意向だとはいえ、母と外界を繋ぐ糸を一本、断ってしまったようで、私の胸はチクリと痛んだ。

表へ出ると春の風が吹いていた。
お昼がまだだったので、鰻を食べ、その後、Hugo & Victorでお茶を飲んだ。
「兄弟、助け合って生きていって欲しい」
その日も母はそう言った。
「わかってる」
いつも通り、私も答える。
ガラス窓の向こう、花屋が見える。

若い時には想像もしなかった。親が病気になったら、親がいなくなったら、つらいのはそこからだろうと思っていた。親が元気なうちは、親との会話に寂しさを感じることなどないと思っていた。
誰も教えてくれない。みんな黙っている。誰もがぶつかることだから――そう思って、みんな黙って耐えている。人生の片付けを始めた親に、娘たち、息子たちはそっと寄り添う。本当はいつまでも子供でいたい、本当の意味で、いつまでも子供でいたい、と願いながら。

「一段落したら、沖縄あたりに家族旅行しようよ!」と妹が言う。母子家庭だった我が家は、母と私、弟、妹、メンバー四人だ。揃って旅行に出かけたのは、もう二十年も前のこと。その時も沖縄だった。レンタカーを借りて、交代で運転して、島を巡り、浜辺をみんなで散歩した。
できれば、同じホテルがいいな、と思う。同じビーチ。同じ海。そして、みんなで散歩する。沈む太陽を見る。星を見る。
きっとそこでも母は同じことを言うのだろう。
「兄弟、助け合って生きていって欲しい」
「わかってる」
いつも通り、私は答える。
「わかってる」
きっと弟も。
きっと妹も。