私のかけら 49  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

10月×日 カリオストロの城

昨日の夜は、『ルパン三世 カリオストロの城』を観た。一か月前に配信レンタルしたものの、気が進まなくて観るのを先延ばししていたら、視聴期限が近づいてきたので、しぶしぶと(レンタルした時は、子供の頃に観ていた『ルパン三世』を再度鑑賞する試みに燃えていた――が、いまはそれほどでも)。

『ルパン三世 カリオストロの城』は、公開時に劇場で二回観たけど、それきり。当時、小学生だった私、すごい!面白い!と興奮した記憶あり。同時に、でも、私が知っているルパンとはちょっと違うなあ・・・と思ったことも覚えている。
違和感のひとつは、キャラクターデザイン。『カリオストロの城』の絵柄より、北原健雄さんが手掛けたテレビ版(2ndシリーズ)のほうが、手足が長く、背が高く、子供心に大人っぽく感じたのです。テレビのほうが、ルックスはいいな、と(一番かっこいいのは原作だけど)。
そして、もうひとつ、強烈に印象に残ったのが、峰不二子の扱い。2ndシリーズはもちろん、原作でも、テレビ版1stシリーズでも、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』でも、セクシーな魅力を振りまいている峰不二子が、『カリオストロの城』ではまるで別人。ガッチリした体つきに太い腕。着ている服も色気がなくて。お城に潜入中のコスチュームを見て、『アルプスの少女ハイジ』のロッテンマイヤーさんみたい・・・と呆然としたことを思い出す。特別不二子びいきだったわけでもないのだけれど、『ルパン三世』に感じた大人っぽさ、かっこよさの重要な構成要素だった峰不二子が、おばさん役に押し込められているみたいで嫌だったなあ。だから、とても面白い映画だけど、これはたぶん別枠ルパン、と、そんな風に捉えていた。これが小学生だった私の『カリオストロの城』評(いま思えば割と的確)。

そして、月日は流れ、数十年。
その間、宮崎駿氏の存在を知り、『カリオストロの城』が宮崎駿監督作品だったことを知り、宮崎駿作品をいくつか観、私はこのひとの作品が苦手だと気づき・・・たぶん、いま、『カリオストロの城』を観ても、厳しい言葉しか出てこないんだろうなあ、と覚悟して観始めて・・・やっぱり私には合わないわ、と痛感。

アニメーションとして評価されるのはわかる。アイディア盛りだくさん、活劇として面白い。異論はない。
でも・・・ルパンも次元大介も中学生にしか見えないのよ、私には・・・。ジャンケンしたり、プロレス技かけあったり、スパゲティを取り合ったり、子供っぽくないですか?原作コミックを読破したばかりだから余計にそう感じるのかもしれないけれど、『ルパン三世』って、登場人物それぞれに成人男性/成人女性の色気があって、そこがいいのに、宮崎駿氏にかかると、見事なまでに去勢されてしまう(手の甲の毛も抜かれちゃう)。

兎にも角にもクラリスという女の子(と、彼女の魅力)を描きたい、その熱は伝わってくる。そして、こういうヒロインが好きなひとが大勢いる、それも理解できる。だけど、私自身は、このヒロインに、全く魅力を感じないんです・・・(好みの問題)。カリオストロ伯爵とクラリスが結婚しても、私は別に構わないけど?という距離で観る『カリオストロの城』の、なんと盛り上がらないことよ・・・。

そして、子供の頃に感じた、不二子の扱いはどうなの?問題。たぶん、大人になったいま観直したら、そこが一番引っかかるだろうと予測はしていたものの、案の定、イヤ~な気分に。監督は、峰不二子みたいな、欲望に正直な女が嫌いなんでしょうね。
他にもいろいろ気になった点はあるけれど(自分で自分のことを「おじさま」と言うルパンに引く、とか、ルパンの「昔はヤンチャしてたけどよ」的発言がダサい、とか)、その辺は、また改めて。

ともあれ、『カリオストロの城』は、アニメとしては本当に面白い。傑作だと思います。私の趣味ではないけどね。

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10月×日 終わった!

終わった!文字校正は残っているけれど、足掛け二か月関わってきた仕事が、とりあえず終わった!
初めて経験する内容だったから、難しいと感じることもあったけど、引き受けて本当に良かった。いい勉強になった。昨日の夜は、『カリオストロの城』をもう一度観たけど、いま、この達成感を宮崎駿作品のために使いたくないので、感想は後日。
今日はくだらないアニメでも観て、げらげら笑って寝る!

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11月×日 2001年宇宙の旅

手掛けていた仕事が一段落ついたためか、楽しい夢を見た。外は晴れている。
シャワーを浴び、出かける支度。
クリーニングに出す服を持って家を出る。

『2001年宇宙の旅』のIMAX上映を観るために、TOHOシネマズ新宿へ。この頃、映画館によく来ているけれど、今日は打ち上げ気分の鑑賞。昼間だったのですいていた。

『2001年宇宙の旅』、実は初見。観ようと思い、20年ぐらい前にDVDを買ったのだけれど、3分ほど観て、面倒になって止めてそれきり。そのDVD、たぶん部屋にまだある。
感想は・・・面白かった!スクリーンが大きくて、音も良くて、気持ちがいい!そして、美術が楽しい!2001年なのに、デザインはシックスティーズ!眼福、眼福・・・。
あとは、光源を置いているところを探すのが楽しかったな。ここから赤いライトあてて、あっちからブルーのライトあてているのか、とか、そういうのを観ているだけで140分過ぎてしまった。
ストーリーは、わからないところもあったけど、まあ、いいか、と流した。最初に出てくる猿人たちが、いかにもひとが特殊メイクして演ってます!って感じで、そこは笑った。それから、HALが読唇するところが可愛かった。やっぱりCGのなかった時代の映画はいいなあ。味があるよね。

帰宅後、書類の整理をしながら、町山智浩さんの『2001年宇宙の旅』解説動画を観る。わからなかったところが、説明されていて、なるほど、と思ったけど、まあ、わからなければわからなくても、とも。

動画を観終えたタイミングで、昨日終えた仕事の文字校正の依頼メールが。今日のうちに、と思い、早速取りかかるも、意外と時間がかかった。途中、確認事項があり、プロデューサーと電話で話す。私の意見を尊重してもらえているのがわかる。引き受けて良かったと思っている。

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10月×日 RED LINE

昼、広東語のレッスン。
午後、美容院へ。今日、済ませてしまわないと、来月半ばまで、髪を切る時間がない。この頃、落ち着かない日々を送っている。
バスで帰ろうかと思ったけれど、今日はハロウィン。渋谷を通りたくないので、タクシーで表参道経由で帰宅。

夜、借りたものの、なかなか鑑賞する時間が取れなかった、アニメ映画『RED LINE』を観る。小池健監督作品。ストーリーは半分ぐらいしかわからなかったけど、画を観ているだけで楽しかった。
ヒロインを演じた蒼井優さんが上手だった。

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11月×日 来年の展望

午後、memorandomの打ち合わせ。
今年はテンポ良く更新することに挑戦してみたけれど、来年はどんな感じで進めようか、と話し合う。
私は、「私のかけら」をお休みして、じっくりエッセイを書いてみたいと思っている、と話す。
全体的にのんびり更新していくことになりそう。

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11月×日 追加作業

昨夜、ベッドに入る支度をしていたところにメール。終わったと思っていた仕事、先方の都合で追加作業の依頼。夜中の執筆は効率が悪いので、とりあえず寝る。

午後から打ち合わせが入っているので、朝、早起きして、作業に取り掛かる。始めてみたら、それほどの手間でもなかった。送稿後、プロデューサーと電話で話す。これで本当にこの仕事は終わり。ローンチまで二週間。私が書いた女の子、受け入れてもらえるといいけれど・・・。

ともあれ、明日からしばらく机を離れる。

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11月×日 未来世紀ブラジル

8日ほど、日記を書かずにいた。その間、初体験と言えるようなことをいくつかしていたのだけれど、それらを書き記す時間的/精神的余裕がなく。やっと日常生活に戻ったので、追々、振り返ることができればと思う。

午後からの打ち合わせに備え、朝、映画『未来世紀ブラジル』をブルーレイディスクで観る。公開した頃に一度、学生時代にフランスで一度観ているので、今日が三度目の鑑賞。昔、観た時は面白いと思ったのに、今回は、それほどでもなかった。正直、上映時間、長すぎる(143分)。ラストは、オリジナル版の絶望エンドで良いと思うけど(映画会社の意向により制作されたハッピーエンドヴァージョンもあるらしい)、カットできるところをもっとカットして、せめて二時間に収まるようにすればいいのに。他のひとがどうかは知らないけれど、年々、長い映画を観るのが苦痛になってきている。もう、二時間超えの映画は観ない、と決めようかな。映画は100分ぐらいにキュッとまとめてあるものが好き。

でも、『未来世紀ブラジルについては、いつかエッセイにしたいという気持ちはある。話が逸れるけど、来年は、第三回で止まっている映画エッセイ『大人になること』(memorandomにて連載)の続きを書こうかとも思っている。2019年の目標。

午後、Iさんと打ち合わせ。ケーキセットを注文。この秋、初のモンブラン。

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11月×日 家族写真

母の家を取り壊すことになり、先週は、一週間、仕事を休み、残していた荷物の整理に行っていた。家族と連日顔を合わせるということも、この年齢になると滅多にない。そんな中で、幼い頃の写真や作文、絵を見ながら、みんなで大笑いしたり、来年には伐採されるであろう庭の山茶花の前で家族写真を撮ったり、一生の思い出となるような時間を過ごした。家がなくなるのは寂しいけれど、母が元気なうちに、一緒に歩みを振り返ることができたのは良かったと思う。

そういった話も含め、来年は、エッセイを書きたい。
私の中に、書き残しておきたい気持ちがある。