私のかけら 47  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

10月×日 ベルリンの壁

昨日の夜は、眠れなくて、またアニメを観た。『ルパン三世 2ndシリーズ』第三話「ヒトラーの遺産」。子供の頃に観た記憶あり。いきなり舞台が西ベルリンで驚く(あったね、西ベルリン・・・)。
内容は、ヒトラーの遺産のありかを知る老人(ナチスの元親衛隊員)が、東ベルリンで身元を隠して暮らしているという情報を得たルパンたちは、東ベルリンへ向かい、彼を拉致してくる。しかし、老人は一向に口を割らない。しびれを切らしたルパンたちは、彼を油断させるために、ナチス親衛隊に変装し、大掛かりな芝居を打つ・・・という物語。
東西ベルリン、ベルリンの壁、鉄条網、国境越え、亡命、ナチスにヒトラー・・・冷戦時代のあれこれに心が震える。そうだった、そうだった、すっかり忘れていたけれど、そういう言葉が日常のニュースにしばしば登場していたよ、70年代は・・・。
しかも、ヒトラーが隠したものは、財宝などではなく、ヒトラーの学生時代の試験答案(点数が悪い)だったというオチ。昔は、ナチスをネタにしたコメディ、たくさんあったなあ。チョビ髭をつけたコスプレヒトラーに、「ハイル、ヒトラー!」と手を挙げるギャグ、定番だったもん。いまの時代、こういうネタでプロット書くひと、いないと思うし、放送もできないだろう。

大体、このコメディを小学生たち(自分も含め)が観ていたというのもすごい。さすがにヒトラーは知っていたと思うけど、まだ子供だった私は、ベルリンの壁、東西ベルリンの存在は理解していなかったんじゃないかな。それなのに、ストーリーは把握していた。そして、それを面白い、と感じていた。子供の頭って本当に柔軟。

他に、番組で、おお・・・と思ったのは、壁越えのシーン。ルパンたちは、西ベルリンから東ベルリンへは、車で検問所を通って入国。しかし、東ベルリンから老人を連れて西ベルリンに戻るときには、ハングライダーで壁を越える。そして、国境警備隊に見つかり、銃撃される。そうそう、当時、西ベルリンに亡命しようとした東ドイツ住民がたくさんいたけど、国境警備隊には、逃亡者に対する射殺許可が出されていたから撃つんだよね・・・(それで命を落としたひとたちも大勢いる)。記憶の底に沈んでいた知識が、プカプカと浮かび上がってくる(私自身、ベルリンの壁を観に行ったことがあるのも、番組を観て思い出した)。

子供の頃に親しんだ『ルパン三世』を大人になったいま観直す試み、あとは『カリオストロの城』だけ観て終了させるつもりだったけど、2ndシーズン、放映時期からいって、冷戦ネタがザクザク出てくるのかも、と思ったら、俄然、興味が湧いてきた。もう少し観続けてみようか・・・。

今日は、通院、執筆のための資料読み、明日の打ち合わせの準備など。
夜、アニメ『モンキー・パンチ 漫画活動大写真』シリーズを観始める。
ベランダのバラ、開花。

*       *       *

10月×日 推し

午後、memorandomで連載をお願いしている漫画家のあらごんさん、編集者Yさんに会う。打ち合わせ終了後、あらごんさんのパートナーMさんも合流。雑談。あらごんさんもMさんも、マンガ/アニメ/ゲーム好きなひとなので、話題がおのずとそちらのほうへ。あらごんさんとMさんに、最近、「私のかけら」、ずっと『ルパン三世』のことを書いていますね、と言われる。本当は、他にもいろいろ観たり、読んだりしているのだけれど、感想を書き留めておこうと思う作品と、忘れてもいいやと思う作品がある。また、感想なし、という時も。感想がないものについては、書かないことが多い。

それから、Mさんに、『ルパン三世』の中で“推し”は誰なんですか?と訊かれ、すごくびっくりした。“推し”という言葉は知っていたけど、私のまわりにオタクのひとがいないので、会話の中で使われているのを聞いたのは初めて。一応、子供の頃に好きだったキャラクターを答えたけれど、なんだかとても照れくさかった(何故だろう?)。

その後、二本、打ち合わせ。
帰宅後、気が重くなるような報告が一件。先方のミスなので、私には責任はないけれど、どんより。

夜、NHKで『昭和元禄落語心中』のドラマ版を途中から観る(初回放映)。アニメ版が良すぎたせいだろう、物足りなく感じた。『昭和元禄落語心中』は、原作マンガも読んだけれど、アニメ版が一番面白いと思う(私見)。

*       *       *

10月×日 漫画活動大写真

『モンキー・パンチ 漫画活動大写真』は、モンキー・パンチ先生の作品を短編アニメ化したシリーズ。全12回。レンタル配信で少しずつ観ているけれど(アマゾンにあった)、とても面白い。一回、約50分。その中に、ショートアニメ数本、15分もの一本、30分もの一本が収められている。構成といい、雰囲気といい、『ゲバゲバ90分』を連想させるなあ、と思ったら、『ゲバゲバ90分』の放送作家だったひと(浦沢義雄さん)が関わっていた。

まだ半分ぐらいしか観ていないけれど、既に、『幕末ヤンキー』『どらきゅらクン』『アウト・サイダー』『一宿一飯』『ミスター侍』など、原作を読んでみたくなっている。剣士、ガンマン、殺し屋、探偵、マッドサイエンティスト、美女・・・登場するキャラクターもいいし、モンキー・パンチ先生のマンガは、ピカレスクロマンが多くて楽しい。『モンキー・パンチ 漫画活動大写真』を観ていると、モンキー・パンチ的センスというものが確かに存在するなあ、と思う。ルパンが~、次元が~というより、モンキー・パンチ的センスが私は好きなのかも。

*       *       *

10月×日 国会図書館

明後日からしばらく書き仕事が続くので、いまのうちに遊んでおきたいと思い、午後、国会図書館へ。
モンキー・パンチ先生の『どらきゅらクン』『おれはカザノ派・前編』『おれはカザノ派・後編』を読んできた。
モンキー・パンチ先生のマンガは、『ルパン三世』以外、ほとんど絶版で、古本でも高値がついている。ならば、国会図書館で読もうか、と。

初めて訪れたので、最初に利用者カードを作ってもらう。カードを持って入館。館内の端末からデータベースにアクセスし、読みたい本を申請する。書庫から本を出してきてもらうのに、20~30分(私は待ち時間を使って、食堂で肉うどんを食べた)。時間を見計らってカウンターへ行き、本を受け取って、閲覧コーナーで読む、という流れ(館外貸し出しはしていない)。
一日で読み切れない本のために通う気にはならないけど、マンガなら、二、三時間の滞在で数冊読み終えることができるから、絶版本やプレミアがついてしまった本をここで、というのはアリだな、と思った。保存状態もよく、古い本でも汚れていないし、無料だし。ただ、飲み物が飲めないのは少々つらい(キャンディ、ガムも禁止)。やはりマンガはコーヒー片手にダラダラと読みたいもの。

ちなみに今回読んだマンガ、『どらきゅらクン』は1975年、『おれはカザノ派』は1974年の作品。『おれはカザノ派』も悪くないけど、私は、『どらきゅらクン』の方が好み。
『どらきゅらクン』は、ドラキュラがおじさんではなく、青年で(痩身で手脚の長いルパン体型)、ドラキュラの不死身の秘密を研究する美人科学者・野々百合子に追いかけ回されるというコメディ。
どらきゅらクンは、殺されても蘇ることができるけど、自分の子孫に殺された時だけは蘇ることができない。だから、自分の子孫を作ることを恐れている(=セックスを恐れている)。そのことを知った野々百合子は、それが本当か確かめるため、どらきゅらクンの子供を誕生させようと、なんとかして彼とセックスしようとするのだけれど、ビビッて逃げ回るどらきゅらクンが滑稽で面白い。要するに、追う男/追われる女という関係を逆転させた笑い。でも、これ、いまの時代だと、セクシャル・ハラスメントと指弾されるかも。それから、これが、子供ができるのが嫌でセックスを拒む女ドラキュラを追いかけ回す男性科学者の話だったら全く笑えないから、そこには非対称性があるなあ、なんてことを考えたりもした。
ともあれ、困っているどらきゅらクンは可愛かったです。