私のかけら 43  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

9月×日 最終回

『ルパン三世 PART5』の最終回が気になって仕方がなかったので、昨日の夜は、先行上映会というものを観に行った(TOHOシネマズ新宿にて)。
アニメのイヴェントに参加したことがなかったので、どんなひとが集まるのか、すごく不安だったけれど、実際、会場に足を踏み入れてみると、特別な雰囲気はなかった。年齢層は高めの印象。カップルもちらほら。本当に普通の映画を観るのと変わらない。ほっとした。でも、それは、作品が『ルパン三世』だからかも。他の作品ならまた違った雰囲気になるのかも。熱狂的なファンばかりが席を占めるというイヴェントもあるだろう。その辺りのことは、初体験の私にはよくわからない。

上映会のほうは、大きなスクリーンで観ると、こんなところまで描きこんでいるのか、と感心したり、家で観ているのとは音が違うなあ、とか、興味深い点も多々。でも、肝心のストーリーは、私の期待値が上がりすぎていたため、ああ、なるほどね・・・という感想に留まった。ひとつ前の回で、警察の特殊部隊を相手に次元大介がひとり戦う、屍累々のシーンがあったから、最後にさらに派手なアクションシーンが観れるのかな、と楽しみにしていたのだけど、最終回は、ルパン三世の頭脳を使った巻き返しで大団円。そうだった、主人公はこのひとだった、忘れていた・・・。考えてみれば、別にアクションシーンが売りの作品でもないしね。私の気持ちが、間違った方向に先走っていました、すみません、という感じ。

終演後、雨は上がっていたけれど、タクシーで帰宅。車中でぼんやりと考える。『PART5』、意欲作だったし(デジタル社会における『ルパン三世』に取り組んでいる)、ファンサービスも盛りだくさん、勢いもあってとても面白かったけど、好きかと自問すると、好きというわけでもないなあ、と。どちらかというと、『PART4』のほうが私は好み。盛り過ぎていない、というか、さらっとした感じが洒落ていて良かった(最終回の終わり方とか)。
「面白い」からと言って、必ずしも「好き」という気持ちになるわけではない、という発見。そして、ファンサービスが盛りだくさんだからと言って、必ずしも嬉しいわけではない、とも。視聴者って我儘ですね。ともあれ、『ルパン三世』については、気になっていた結末を知ることができて満足。興味は今日限りで萎んでいくだろう。残る夏アニメは『ハイスコアガール』か・・・。

今日は、夕方、打ち合わせが。編集者Kさんからの原稿依頼、引き受けることにする。

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9月×日 字幕/吹替

『ルパン三世 PART5』に、いろいろな銃火器が出てきて、それを見ているのが面白かったので、このままガンアクションを楽しめる映画を観ようと、昨日の夜はiPadを持ってベッドに入った。リボルバーが出てくる映画がいいな、だとしたら、定番のあれですかね、と、『ダーティハリー』を選ぶ。ラロ・シフリンの音楽にワクワクしながら鑑賞を始めるも10分、再生中止ボタンに触れる。さすがにこれは・・・。アマゾンプライムにあるのが字幕版のみだったので、それを観ていたのだけれど、英語の苦手な私にも、台詞が大幅に端折られていることがわかる。
最初のほうに出てくる、『ダーティハリー』で一番人気のあるシーン。そこでの台詞、「考えはわかってるよ。俺がもう6発撃ったか、まだ5発か」が、字幕だと、「考えてるな。弾が残ってるかどうか」。意味は合っているけれど、リボルバー使いならではの言い回し(ハリーの愛用拳銃S&W M29の装弾数は6発)がバサッとカットされていて、これではあまりに味気ない。気分は盛り上がっていたけれど、吹き替え版を改めてレンタルすることに。
子供の頃から、たくさんの映画を字幕版で観てきたけれど、私は、言い回しの面白さをさほど味わうことなく、所詮は、映画を観た気になっていただけなのかもしれない。そう考えると、とても残念。ションボリしながら、早めに就寝。

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9月×日 ナシとかアリとか

午後、打ち合わせ。
帰りにひとり、カフェに寄り、パン・オ・レザンとコーヒーで軽食。
『ルパン三世 PART5』の最終回のことを考える。ひっかかっているのは、後半のクライマックス、峰不二子がルパン三世に、「私はあなたの何?」と問うシーン。それに対し、ルパン三世が、誠意見せます、みたいな行動に出る。そのシークエンスは、一応ハッピーな着地をするのだけれど、私は、峰不二子はコケットリーなキャラクターなのだと思っていたから、その台詞を聞いたとき、ええっ、そんなこと言わせちゃうんだ、と本当に驚いた。
現実には、そう尋ねたくなる局面もあるだろうし、尋ねたいひとは尋ねたらいいと思うけど、私がショートストーリーを書くとき、「大人の女」という設定で考えた場合、「私はあなたの何?」は、まず言わせない台詞。いろいろな意味で、それはナシ、って思う。でも、私にはナシの言葉でも、アリということで書くひともいる。世の中には、いろいろなひとがいる。そして、それぞれのセンスで、それはナシとかそれはアリとか勝手に決めている。面白いなあ、と思う。

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9月×日 粘膜

エアコンが故障したので、修理のひとに来てもらう。待っている間、とあるアニメーターのインタビュー動画を観ていたら、そのアニメーターは、描く女性が色っぽいと定評があるが、描くときにポイントにしている点はどこかと訊かれ、(顔でいうと)粘膜の部分、つまり眼と口、それから、手や足の交差のさせ方、そこに女性らしさを見ている、というようなことを答えていた。なるほどなあ、と感心。絵を描くひとの着眼点は面白い。文章を書く上でも参考になる。

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9月×日 ダーティハリー

『ダーティハリー』のブルーレイディスクを借りたので、早速、観る。市販されているブルーレイディスクは、山田康雄さんの吹き替え版が収められていると聞いていたので、ひそかに期待していたら、レンタル用ブルーレイディスクも山田康雄さんの吹き替えが。嬉しい!ちゃんとハリー・キャラハン(主人公)が「コイツはマグナム44って言って、世界一強力な拳銃なんだ。お前さんの ドタマなんて一発で吹っ飛ぶぜ」と言っていた(字幕版だと「これは特製の大型拳銃だ」。「マグナム44」という言葉は出てこない)。
無事、ラストまで観ての感想。これは憧れちゃう男の子多かっただろうなあ。ホットドッグを食べながら、通りをスタスタ渡ってきて、銀行強盗に向けてバヒューン、バヒューン、バヒューンと拳銃を撃ち(本当に、バヒューンという発砲音になっている)、決め台詞。で、また、スタスタ歩いて行っちゃう。あと、マグナム44(S&W M29)を片手で撃つところもカッコいいかも・・・と、これは、憧れるひとの気持ちがわかる、という話。私自身は、ハリー・キャラハンが着ているジャケットに肘当て(エルボーパッチ)がついていて可愛い、連続殺人犯役のひとの熱演がすごい、サンフランシスコの青空が綺麗、アメ車がたくさん出てきて面白い、それから、S&W M29って、随分大きいんだなあ、とハリー・キャラハンが拳銃を取り出す度に、そこに目がいった(190㎝のクリント・イーストウッドが持っても大きく見える)。こんなに大きな拳銃を収めたショルダーホルスターを身に着けて、さらにジャケットを着用して、映画では、さっと取り出して撃っているけど、そんなこと可能なの?という疑問も。いずれにせよ、拳銃について全然知識がないので、知ることばかりで興味深い。明日は『ダーティハリー2』を観る。