私のかけら 42  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

9月×日 今日は別に変わらない

昨日は、『事件』と『鉄砲玉の美学』、どちらにするか迷って、結局、『鉄砲玉の美学』(中島貞夫監督)を観た。渡瀬恒彦主演だから東映作品かと思ったら、ATGだった。『鉄砲玉の美学』というタイトルだけ見れば、派手に散っていくヤクザ映画を想像するけど全然違う。美学も何もあったものじゃない。チンケなチンピラが、クサクサした日常から逃れたくて、鉄砲玉となり敵のシマに乗り込むことを引き受けるものの、いざとなるとビビッてひとは撃てないし、自分がこの先死ぬことを考えると怖くてたまらなくなるし、怖いから現実逃避でホテルに籠って女とセックスばかりしているし、でも、いっぱしのヤクザになったような気がして有頂天になったり、もう、かっこいいところなんてひとつもない。結局、鉄砲玉としての役割を果たさないうちに、属する組と敵対する組は手打ちして、梯子を外されたチンピラは行き場を失くす。そして、本筋とは全く関係ないことで犬死にしてしまう――という青春映画だった。割とすぐに、ああ、これはアメリカン・ニューシネマなのね、と理解したので、そこそこ楽しめた。これは、『真夜中のカーボーイ』なのね、と(無様系青春映画)。音楽は頭脳警察。オープニングでかかるのは「ふざけるんじゃねえよ」。ラストでチンピラが死んだあとに流れるのは「今日は別に変わらない」。Gyaoのレンタル配信で300円だった。

午後、打ち合わせ。

夕方、事務所スタッフYとお茶。ケーキを食べながら、『鉄砲玉の美学』の話。1972年の作品だと伝えると、「わー、1972年っていったら、渡瀬恒彦がギラッギラしてた頃ですね!」とY。渡瀬恒彦、そんなに好きじゃないけど、鉄砲玉映画、もう少し続けて観たい気分。

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9月×日 お預け

昨日の打ち合わせで、(依頼された仕事を)引き受けると答えてしまったので、今週は机に向かわねばならない。久しぶりに女性が主人公のショートストーリーを書く。私の気持ちは、東映実録もの(ヤクザ映画)に向かっていたけれど、仕上がるまではお預けだ。アニメもマンガも観ないようにする。

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9月×日 準備段階

午後、原稿執筆の準備。アイディアを書き出す作業。今回は資料がたくさんあり、それに目を通すだけで時間がかかった。

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9月×日 誕生日

アニメもマンガも観ないようにする、と決めていたのに、配信されていた『ルパン三世 PART5』の最新話を観てしまった。先々週ぐらいから、最終回に向けて伏線がガンガン回収されて、俄然面白くなってきた。このシリーズがやりたかったことってこういうことだったのか!と今更ながら気づくことが多く、感動している。今期、観ていたアニメの中で、最後になってベスト3に躍り出たという感じ。
今週は、ルパンと石川五ェ門が決闘みたいになって、ルパンは石川五ェ門に斬られて倒れてしまう、というところで終了。緊張感あふれる展開に、次元大介はどう出るの⁈と来週が猛烈に気になる。
アニメにしても映画にしても、「へえー」とか、「なるほど」とか、そんな感想しか抱かない私が、こんなに次週を楽しみにするなんて、小学生以来かも。『DEVILMAN crybaby』が面白かったので、同じ脚本家が手掛けるなら、と期待して観始めた『ルパン三世 PART5』。何度も脱落しそうになったけど、この半年、観続けてきて良かった。

夜、懐石料理(誕生日)。

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9月×日 アニメ一考

イメージが湧いてきたので、原稿を書き始めること、数十分。メールで追加資料が届く。私のアイディアは方向性が間違っている気がする。一から考え直すことに。週末中に終わらせられるだろうか。不安。

一年とちょっと、アニメをいろいろ観てみたけれど、面白いと感じたものも、それほどではないものもあった。一話だけ見て止めたものもたくさん。オタクにはならなかった。かっこいいと思うキャラクター、面白いと思うキャラクターはいたけれど、キャラ萌えという状態まではわからなかった。二次創作をするひとの気持ちも理解できなかった。というか、私には、そういう妄想力が全くない、ということがわかった。作品を観た後に考察するということがほとんどなく、「なるほど!」→「次は何を観ようかな」とさらっと流れてしまうので、この作品のファン、と言える状態には、なかなかなれない。内容もすぐに忘れてしまうし。あと、いい声だな、とか、うまいな、と感心することはあっても、特定の声優のファンになることもなかった。
いまの時代、私のように、ぼやっとアニメを消費しているひとも、世の中にはたくさんいるんだろうなあ。アニメを観ているひと=アニメオタクというわけではないんですね。

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9月×日 10日の間

10日ほど、引き受けた仕事にかかりきりで、日々のことを書く余裕がなかった。今日は午前からの打ち合わせも済ませ、明日、明後日と、何も書かなくていいので、ほっとしている。一年近く、お話を作るという作業をしていなかったので、最初は、どこから手をつければいいのか、途方に暮れたけど、こんな雰囲気が漂う世界、というものをイメージして、それに近い香水を選び、その香りをつけて机に向かったら、何となくあらすじが書けた。改めて、私にとって香水はイマジネーションの玉手箱だなあ、と思う。香水、増えすぎたから手放そうかと思ったりもしたけれど、手放さなくて良かった。香水に助けられた。