私のかけら 41  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

8月×日 午前十時の映画祭

ツイッターを眺めていたら、《午前十時の映画祭》で、10月にアンジェ・ワイダ監督の『灰とダイヤモンド』を上映するという情報が流れてきた。わあ、懐かしい・・・!頭の中に、あの鮮烈なラストシーンが蘇ってくる。
『灰とダイヤモンド』を観たのは、中学生の頃だったと思う。反政府活動に身を投じる青年の物語。重い内容だけど、主人公の若さが砕けるせつなさと、そしてどこかかっこよさも感じる映画だった。主人公を演じた(ズビグニエフ・)チブルスキーが男っぽくて、少女だった私の目に魅力的に映ったことも記憶している。そして一緒に、大学生のときに、たまたま深夜、テレビで放映されていた映画『夜の終わりに』(これもアンジェ・ワイダ監督)に、主人公の友人役で出演していたチブルスキーを発見、この作品が再映されることは滅多にないだろうと、ビデオを購入したことも思い出した(たぶん探せば、家のどこかにあるはず)。

いま、観直したら、どう感じるのかな。『灰とダイヤモンド』、観に行きたいな。《午前十時の映画祭》、しばらく足を運んでいなかったけれど、久しぶりに行ってみようか。
《午前十時の映画祭》公式サイトでプログラムを調べると、今年後半、上映される作品は、観たことのあるものばかり。でも、『灰とダイヤモンド』の他にも、もう一度、観てみたい作品がたくさんあった。『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』、『ソフィーの選択』(何年か前に突然観直したくなってビデオを買った記憶あり)、『裸の島』、『パリの恋人』(DVDを持っている)、『チャンス』(公開時に劇場で観た)、『狼たちの午後』・・・。特に、10代、20代の頃に観たものに興味が湧く。

タイトルを見ながらワクワクする私は、映画が好きなのかな、とふと考える。子供の頃から、映画は身近なものだったけれど、ここ最近、それほど私は映画が好きではないかも、と思うようになった。何故、そんな風に感じるようになったのか、理由を探しているけれど、なかなかうまくまとめられない。映画も本も、観ないひとよりは観ているけれど、読まないひとよりは読んでいるけれど、私の興味は熱くない。低温だと思う。

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8月×日 眼福映画

企画展『ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ』@世田谷文学館。信藤(三雄)さんとのトークショーに出演する小西(康陽)さんに同行する。信藤さんに久しぶりにお会いした。お元気そうで何より。
トークショー前に展覧会も拝見。会場には、信藤さんの手がけたCDジャケットやポスターが所狭しと並べられている。懐かしく、そして、みんな若かったなあ、と頬が緩む。
トークショーは、スクーターズ(信藤さんが参加しているバンド)の話が中心。ピチカート・ファイヴの話も少し。聞きながら、信藤さんと小西さんの話に、記憶違いがあることに気づく(ピチカート・ファイヴ解散の頃のことなど)。九十年代と言ったら、もう二十年~三十年前のこと。私も含め、みんな記憶がまだらになっている。

それから、トークショーで、信藤さんが、綺麗な女の人を映していれば、それだけで映画は成立する(その綺麗なひとをずっと観ていたいという気持ちで最後まで観ることができてしまう、という意味)というようなことを仰っていたのが印象に残った。というのも、とっさに、それ、全く逆のことも言えるのでは、と思ったから。
信藤さんが綺麗な女のひとを観ていたいと思うように、私もかっこいい男のひとを観ていたい。かっこいい男のひとをずっと観ていたいという気持ちだけで最後まで映画を観ることができてしまう。
例えば、黒澤明の映画の中では、『用心棒』が私は特に好きだけど、あれだって、とどのつまり、かっこいい三船敏郎を二時間観ていられるという眼福映画だと思うしね。ああ、急に、『用心棒』が観たくなってきた・・・。六月の4Kデジタルリマスター上映、行っておけば良かったな・・・。

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8月×日 新しい仕事

朝、起きて、メールをチェックすると、事務所から仕事の依頼が来ていると連絡が。経験のない内容。対応できるかどうかわからず。とりあえず打ち合わせを、と返事する。ここのところ、あまり執筆の仕事をしていないので勘が戻るか心配。でも、引き受ければきっといい気分転換になるだろう。長い冬眠から、そろそろ目を覚まさないと・・・。

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8月×日 黒電話とスマートフォン

読み進めている『ルパン三世』の原作コミック、現在、5巻目。昔に比べ、マンガを読むのが遅くなったと思う。集中力が落ちている。『ルパン三世』を読破したら、次は押切蓮介さんの『ハイスコアガール』を読もうと思い、買ってあるのだけれど、手を出せるのはいつのことやら。積読多し。

『ルパン三世』の原作コミックを読んでいて気づいたこと:出てくる電話が、当たり前だけど、みんな黒電話。もしかして、若いひとは、コマの中に描かれた、デスクの上の黒い塊が何なのか、全くわからないのでは?と、はっとする。私は、子供の頃に読んだマンガだから、違和感なくページをめくっているけれど、『ルパン三世』の連載開始は50年前、いまの時代に初めて読んだら、「歴史」を意識するほどの古さかもしれない。小学生の頃、『のらくろ』を読んで、わあ、昔のマンガだ~!(『のらくろ』は帝国陸軍の兵隊なので)と思った記憶があるけれど、あんな感覚かな?

ちなみに、いま放映しているアニメの『ルパン三世 PART5』では、ルパンたちがスマートフォンを使っている。ルパンにはSNSを使うシーンがあって、次元大介はスマートフォンを使うけど、SNSはやっていない。ちょっとSNSに対して引いている感じ。石川五ェ門はルパンにスマートフォン渡されているけど、電話がかかってきても受け取り方がわからなくて、表示された発信者の名前のところを一生懸命スワイプしていて、当然、電話に出られず、キィーッ!となって、地面にスマートフォンを地面に叩きつけ、ディスプレイにヒビ入れてた。
私はスマートフォンを使うけど、SNSは有効活用できていないから、デジタル社会適応度は次元大介レベルね。

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9月×日 音楽という小道具

午後、ジェイムズ・ボールドウィン『ビールストリートに口あらば』の続きを読む。それほど長い小説ではないのに、まだ読み終わらない。週末のうちに読破したいところだけれど。
今日は、主人公ティッシュが、恋人ファニーの子供を身籠ったことを、家族に打ち明けるところまで。ファニーは無実の罪で収監されている。妊娠したティッシュを支えようとするティッシュの家族。その会話に心温まる。
物語は序盤だけど、既にアレサ・フランクリンの曲が二曲も登場している。この間読んだボールドウィンの小説『あらかじめ決まっていること』でも、エラ・フィッツジェラルドの曲が出てきたし、ボールドウィンは作中に音楽を使うのが好きね。そして使い方がとても上手。

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9月×日 今日の映画

朝、目が覚めて、今日は何を観ようかなあ、と考える。『BANANA FISH』、『はたらく細胞』、まだ観ていない今週分のアニメがたまっているけれど、実写映画に気が向いている。渡瀬恒彦が観たいな、とぼんやり思う。先週観たアニメ『血煙の石川五ェ門』の中に出てきたヤクザの組長の息子(二代目)が、渡瀬恒彦をモデルにキャラクターデザインされていると知ってから(似顔絵的には似てないけれど、ああ、わかるわかる、という感じだった)、渡瀬恒彦が頭の中をウロウロしている。久々に『事件』(野村芳太郎監督)でも観ようかなあ。渡瀬恒彦、特に好きということもないけれど、『事件』でやったチンピラの役は良かった。
中島貞夫監督『鉄砲玉の美学』と、どちらにしようか迷っている。