私のかけら 30  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

4月×日 モホイ=ナジを追って

先週は、東京都写真美術館へ《『光画』と新興写真 モダニズムの日本》展を観に行った。
新興写真についての知識は全く無かったけれど、展覧会の告知サイトで展示作品のいくつかを目にし、私の好きなラースロー・モホイ=ナジの作品を連想したのがきっかけだ。
実際、会場に足を踏み入れると、最初のほうに新興写真に影響を与えた作家の作品として、モホイ=ナジのそれも展示されていた。ならば、これは私の好きなタイプの展覧会に違いない。安堵したのち、作品を観て回ったのだが、意外と数が多く、また、ポートレイトなども含まれていて、内容には幅があった。
私の写真への興味は偏っている。目がいくのは、ものの形、画面の構成、光と影(白と黒)のコントラスト。実験的な遊びが感じられる作品が好きだ。私は写真の中に、感動よりも、ひらめきを探しているのだと思う。そして、展覧会は、その好みに大方応えてくれた。ニヤリとさせられる写真多々。
この一年、あまり外に興味が向かず、写真展に足を運ぶのは、去年観たダヤニータ・シン展以来、久ぶりだったのだけれど、平日の午後、散歩がてら写真を観に出てくるのもいいものだな、と思った。
帰りに併設のカフェで冷たいカフェ・ラテを飲んだ。梅雨に入れば、出不精になってしまうだろうから、それまでの間、もう少しこういった機会を設けようと思う。

*       *       *

4月×日 乱世備忘

先週は、映画の試写にも行った。ドキュメンタリー映画『乱世備忘 僕らの雨傘運動』。2014年に香港で起こった民主化要求デモ《雨傘運動》を追った作品だ。
2017年に予定されていた、香港人にとっては初めての普通選挙による行政長官選挙。その公平性が中国共産党に阻まれたことを知り、立ち上がった人々――。このデモは、台湾のひまわり運動と同じく、若者(学生)が中心になって展開されたことでも注目を集めたが、この作品は、当時27歳だった陳梓桓監督がカメラを手に、そこで知り合った仲間たちとともにその前線に立ち、自身の体験として撮影した79日間に亘る抗議活動の記録である。

映画を観終えた私の感想は、本当にこの映像のまんまだったな、というものだった。というのも、私は、運動の真っ只中の2014年10月、デモ参加者によって占拠された三つのエリア、旺角、金鐘、銅鑼灣を実際に訪れ、歩いているのだ。
いま思い出しても奇妙な感覚に襲われる。とにかく、その熱気たるや凄まじかった。大都会の中に忽然と現れた空間。そこに集う大勢の若者たち。特に、三つのエリアの中で最も広範囲な占拠となった金鐘は、参加者が寝泊まりするテントで埋め尽くされ、物資の配給所があり、野外自習コーナーがあり、風に翻る垂れ幕、張り紙が壁という壁を覆い、オブジェが大量に置かれ、抗議の場でありながら、同時に爆発的な表現力よって彩られた、まるでひとつの村のようでもあった。
真の普通選挙(民主的な選挙制度)を私たちは求めている――雨傘運動における要求は至ってシンプルなものだが、それだけに切実さを帯び、傍観者であるこちらにまで力強く迫って来る。あの圧倒されるような感覚を、この映画は私の中に呼び覚ます。あのときの空気を、映画は誇張なく映像に収めている。

ただ、香港の自治問題については、事情がやや複雑だし(選挙制度は私たちのそれとは随分違う)、雨傘運動の成り行きについても、映画の中で解説されているわけではないので、予備知識なしで観るのは少々厳しいかもしれない(鑑賞前にウィキペディアなどで雨傘運動について一読しておくことをお勧めする)。また、監督とその仲間数名の中だけで話が進んでいくため、ジャーナリズム的なものを求めるひとには物足りないだろう。そして、作品に青春の一ページ的な甘酸っぱさが漂うところは好き嫌いが分かれるところだとも思う(これがこの作品の味でもある)。でも、同じ時代に生きる人々が、ひとつの現実に対し、どのような行動を起こしたのか、記録として目にするだけでも貴重な経験になるはずだ。最後にチラシに書かれていたコピーをここに引用する。“未来は一瞬じゃ変えられない でもこの時間がいつか未来をつくる”――明確な成果を得ないまま収束した雨傘運動だが、あの日の熱気が未来へとつながっていくことを、私も切に願っている。香港に魅せられた者のひとりとして。東京での上映は7月14日より。ポレポレ東中野にて。

*       *       *

4月×日 恋は雨上がりのように

昨日も試写。大泉洋&小松菜奈主演、『恋は雨上がりのように』。アニメを観たら面白かったので、原作コミックを買って読んで、コミックがさらに面白かったので、映画も・・・という流れ。
結論から言うと、私は原作を真剣に読み過ぎた!映画の最中、ずっと、このエピソードがこっちに来たのか、あのセリフはカットされたのか、とかそんなことばかりが気になって、全然集中できなかった‼ 残念・・・。
でも、悪くない映画だったとは思う。というか、マンガ、アニメ、映画、それぞれ違う着地をするのだけれど、どれも味わい深くて良かった。個人的にはコミックのエンディングが一番好きだけど(一番切ない)。映画の終わり方は柔らかく、アニメは爽やか。アニメは主人公(女子高生)と相手役(バイト先の店長45歳)の生活を上手に対比させていて、そこが良かった。作中、引用される芥川龍之介の「羅生門」モチーフもしっかり活かしていたし。私の好みを言えば、原作>アニメ>映画かな。
あと、映画を観て思ったのは、やっぱり全十巻のコミックを二時間にまとめるのって難しいんだなあ、ということ。枝葉の部分はバサバサと払い落とされて、主人公にフォーカスした作りに。中年店長の心情に気持ちを寄せていた読者には少々物足りなさがあるかも的な、若い観客向けのストレートな青春映画でした。以上、感想メモ。

*       *       *

4月×日 南北首脳会談

曇り。それほど気温は高くないのに、ムシムシする。
午後、ツイッターを開くと、タイムラインは南北首脳会談一色。私も遅ればせながら、金正恩と文在寅が握手する映像をスマートフォンで観る。喜ばしいことだけど、正直、なんだか不思議な感じ。