私のかけら 25  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

3月×日 花の季節

ベランダのチューリップが色づき始めた。一番乗りは赤と黄色の複色のもの。三月中に咲くと思ってもみなかったので驚き。桜が咲き始めているところを見ても、今年は随分と春が早い。このまま暖かくなるのだろうか。
午後、園芸作業。咲き終えたクロッカスを球根ごと引き抜き、片付ける。
他の鉢はというと、バラの枝に赤い葉芽、ブルーベリーの木に花芽、クリスマスローズは、さらに花の数を増やしている。マーガレットにヴィオラ、ゼラニウム。これからしばらくは花が絶えることはない。開花のリレーが始まった、という感じ。
青空の下、陽光を浴びる植物たち。そのどれもが生命力で漲っている。それに引き換え、いまだ冬の気分を引きずっている私。十分眠ったはずなのに、それでもまだ瞼が重い。ぼんやりしていると、季節に取り残されてしまうなあ・・・。

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3月×日 春分

家を出る頃には、雪は雨に変わっていた。傘をさしてタクシーに乗り、六本木に向かう。今日は映画の関係者試写。待ち合わせ場所へ行くと、冷たい風の吹く中、Y君、Hさんが待っていてくれた。KさんとBさんは後から到着。休日の六本木は、ひとが少なく、がらんとしている。

帰りにKさんと中華料理。私が食べたのは、小籠包、豆苗炒め、上海風焼きそば、マンゴープリン。今日は冒険のないチョイス。

食事の後、店を変え、コーヒーを飲む。このところ、二十年後、三十年後のことばかり考えてしまい、今日、明日のことにピントが合わないでいる、という話をすると、耳を傾けていたKさん、後になってから、あのとき考えておいて良かったと思えるようになるかもしれないよ、と言ってくれる。目の前のことに集中できない自分を心のどこかで責めていた私、Kさんの言葉にハッとする。そのとき考えたいことを存分に考えてみるというのも、悪いことではないかもしれない。

帰宅後、アニメ『宇宙よりも遠い場所』を観る。

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3月×日 雨上がり

雨上がり。カフェで昼食を済ませ、ジムへ行く。トレーニングに関しては、ここ一、二か月、全くやる気が出ない。今日も途中で帰ってきてしまった。そもそも軽い運動のみで組んでいるメニューなのだから、真面目にやらなければ意味がないのに。
でも、続けてさえいれば、またやる気も出るだろう、と楽観している自分もいる。

ジムからの帰り道、地面はまだ湿っていたけれど、見上げた空は、青く澄んでいた。昨日の雪が嘘のよう。
それにしても、今週は気温の寒暖差が激しい。その影響を受けているのか、私の気分も不安定。

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3月×日 寂しい夢

寂しい夢を見た。思い出したくないことを、その夢のせいで思い出してしまった。もう一度眠って、もう一度夢を見たら、忘れられるかも、そう思い、再び目を閉じた。そして、別の夢を見た。でも、今度も、やっぱり寂しい夢だった。二回も続けて寂しい夢を見るなんて不運としか言いようがない。青空が広がっているのに、ひどく重い朝の目覚め。窓から開花した桜が見えるのに、心は虚ろな週末、土曜日。

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3月×日 陽光

昨夜、母と姪が遊びに来て賑やかだったせいか、今日の夢は明るかった。内容は覚えていないけれど、楽しい気分で目が覚めた。カーテンを開けると、今日も青空。開花したチューリップがさらに増えている。窓を開けて写真を一枚。暖かな風が吹いている。

昼、妹から電話あり。旅行に誘われるも、原稿の締め切りと重なっていて断念。どこかへ行きたい気持ちはあるのに。