私のかけら 22  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

2月×日 風邪と香港

香港に行っていた。風邪を引いて帰って来た。そして、いまだに臥せっている(そのため、『私のかけら』も一回お休み)。これが、この十日の間の出来事。
熱も下がって来たし、食欲も出てきたのに、まだ咳が出るのがもどかしい。明日の打ち合わせ、行けるといいけど・・・。
そういえば、病床で知り、驚いたニュース。中国の国家主席の任期がどうやら撤廃されるらしい。つまり、それは習近平が死ぬまで主席を務めることも可能になるということ――いまどきそんな方向に憲法が改正される国があるなんて。唖然とするとともに、胸が痛む。香港の自治権を守るために活動している人たちは、どんな気持ちでこの知らせを受け止めているのだろう。ただでさえ中国の干渉がどんどん強くなってきているというのに。心配。

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2月×日 風邪と読書

熱は下がったものの、咳が止まらず、打ち合わせは日を改めることに。ベッドの中で遠藤誉著『香港バリケード――若者はなぜ立ち上がったのか』を読む(前半部まで)。2014年に起きた雨傘運動に関する考察。経緯や背景、なぜ成功しなかったかの分析など。
遠藤誉さんの中国関連の本を読むのはこれで三冊目。いつもながら読み易い。

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3月×日 春の始まり

白、黄色、紫色。ベランダではクロッカスがたくさんの花を咲かせている。
植えた球根の数は約百五十球。用意した植木鉢は十鉢ほど。
思いっきり咲かせてみたら楽しいかも、とふとひらめき、黙々と球根を埋めたのが去年の秋。狙い通り、賑やかな鉢植えができあがりました(鉢の中で小人たちがお祭りでもしているみたい!)。
秋植えの花が咲くと、本当に嬉しい。仕込みの作業をするときは、季節的にも寒いし、花が咲いたときの喜びを半分ぐらい忘れているから、億劫だなあ、今年はサボろうかなあ、などと考えたりもするけれど、こうして花が咲くと、サボらなくて良かった、と心の底から思う。
ちなみに、他の植物の様子を記すと、バラもブルーベリーも芽吹いていて、マーガレットにも小さな蕾がつき始めた。チューリップの球根も葉がすくすくと伸びている。どの鉢を覗いても、動きがあって今の時期は楽しい。
暦の上でも今日から三月。心躍る春の始まり。

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3月×日 香港バリケード

法務局で所用を済ませた帰り、カフェに入り、本を開く。『香港バリケード――若者はなぜ立ち上がったのか』の続き。今日は後半部、雨傘運動に対し、香港市民がどう関わったか、一般人へのインタビューを試みた章を主に読む。運動を遠巻きに眺めていたひと、支援に回ったひと、実際占拠活動に参加したひと・・・さまざまな立場。さまざまな想い。当時、私も、香港へ飛び、デモの現場を見て回ったので、ページをめくっていくうちに、そのときのことが生々しく思い出され、胸が熱くなった。と、同時に、近頃の私は香港の政治問題から遠ざかっているなあ、とも。この本の言葉を借りれば、“資本主義から社会主義に変わるという稀有な現象の中にいる”香港。その香港が、どのように生き延びていくのか、以前の私は強く興味をもっていたのに。情けない話、この一年、自分のことで手いっぱいで、雑事に追われるがまま過ごしてしまった。そういう時期もある、と開き直ることもできるけど、この辺りで気持ちを切り替えて、もう少し広い視野を持って暮らしたい、とも思う。桃の節句を前にした戌年の目標。

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3月×日 桃の節句

午後、読書。『香港バリケード――若者はなぜ立ち上がったのか』読了。