私のかけら 21  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

2月×日 マンガ再読

三連休初日。夕方、時間ができたので、『恋は雨上がりのように』のコミックスを一巻から読み直す。女子高校生が、バイト先のファミレス店長(四十五歳・離婚経験あり)に恋をしてしまう物語。季節の描写なども織り交ぜながら、ふたりの心の交流を丁寧に描いていく、そのゆったりした流れが心地よい。果敢にアプローチする女子高校生。その熱量に戸惑いながらも、あくまで一線を引いて接する店長。どちらの気持ちもわかるなあ、と思いつつ、やはり年の近い店長のほうに心を寄せて読んでしまう私。例えば、主人公(女子高生)の言動の中に自分が失った若さを見る店長のモノローグが度々出てくるのだけれど、それなんて、まるで友達の話でも聞いているかのよう。こちらまでしんみりしてしまう。
でも、一方で、四十五歳の人間がそこまで中年であることを意識するのは、高校生と相対したからでは、と思ってみたり。十代に比べれば、さすがに四十五歳はおじさんだけど、そういった比較から離れて、個の人生として考えれば、四十代はまだまだ体力もあるし、楽しい時期のはず。そう考えるのは、私だけ?このマンガは、女子高生のひたむきさに触発されて、中年店長が自分の人生に取り組み直す話だから(女子高生のほうも中年店長に促され、諦めかけていた陸上競技への情熱を取り戻す・・・流れになっている、いまのところ)、コントラストをつけるために、前半店長をより枯れた感じに描いているのだろうけど、自分の経験からすると四十代って三十代と意外と地続き。やっと心身ともに大人の構えができたかな、ぐらいの感じだと思う。

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2月×日 三連休中日

三連休中日。終日、デスクワーク。

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2月×日 探しもの

三連休最終日。Aさんとお喋り。今期のアニメは女子高校生ものが多いみたいで、なかなか大人が主人公の作品が見つからない、と私がこぼすと、Aさん、「おっさん」+「アニメ」で検索して挙がったタイトルを教えてくれた。『ゴルゴ13』、『クッキングパパ』、他に『舟を編む』も検索結果にある、というので、夜、早速『舟を編む』を視聴してみることに(アマゾンプライムのリストにあった)。映画版を観ているので、あらすじは知っていたけれど、アニメ版はアニメ版でテンポが良くて面白い(絵も綺麗)。登場人物が皆、社会人なので、全体の雰囲気が落ち着いているのもいい。好みの作品が見つかったかも、と喜びつつ、第四話まで観る。

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2月×日 産声

朝、カーテンを開けると、ベランダの植木鉢に今年最初のクロッカスが咲いていた。花の色は、目にしたこちらまで元気になるような明るいイエロー。真っ直ぐ天に向かって開いた花は、産声でもあげているみたいで実に可愛らしい。春が近づいているんだな、と思う。

午後、事務所スタッフYに会う。仕事の相談など。

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2月×日 舟を編む

昨日の夜は、『舟を編む』のアニメ版を最終話まで観た。映画版よりも構成がすっきりしていて面白かった。というのも、映画版に比べ、アニメ版は、主人公の恋愛エピソードがギリギリまで削ってあって、その分、映画版でオダギリジョーが演じた同僚との関係に時間が割かれていたから。対照的な個性を持った若い編集部員ふたりが、互いに刺激を与えあいながら、自分の活かし方を見つけ、辞書の制作に関わっていくところ、なかなかいい。また、最初から最後まで、物語を、辞書を編纂する人々(辞書編集部)中心に進めていて、それ以外の人は抑えた存在になっているのも良かった。だから、アニメ版のほうが辞書を作り上げていく過程がストレートに頭に入って来たのだと思う。ともあれ、映画版に感じていた散漫さがなくなっていて大満足。映画よりアニメのほうが良いなんていうこともあるんだなあ。

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2月×日 大晦日

旧暦で数えると、今日は一年の終り、大晦日。東京は幸い気温が上がり、青空が広がった。ベランダの植木鉢には、黄色に加え、白いクロッカスも咲き始め、迎春という言葉がぴったり。暖かな日差しに気持ちも緩む。
ここ数年、旧正月元旦を香港で迎えてきた私にとって、東京で過ごす今年は静かな年越し。赤と金色で飾られた街を恋しくも思うけれど、穏やかな気持ちで一年を振り返るのも、それはそれでいいものだ。
カフェでランチをとった帰り道。街路樹の枝の影を踏みながら、去り行く年のことを考える。これから迎え入れる年のことも。心配性の私。怖がりな私。でも、大丈夫、新しい年はうまくやれそう――楽観的にそう思う。日本のお正月は厳しい寒さの中にあるけれど、春を間近に控えた旧正月は明るく優しい。ひとをオプティミストに変えてしまう。
いい年になるといいな。一か月半前に唱えた言葉を、私は再び胸に唱える。今日はこの冬二度目の大晦日。私には、今日が本当の大晦日。

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2月×日 恭喜發財

旧正月元旦。・・・といっても、東京にいる私は普段通りの暮らし。平日の金曜日を過ごしている。
今日は、アマゾンで本を四冊購入。どれも香港に関するもの。もう香港の本はいいかな、と思っていたのだけれど、気まぐれに。
一冊は電子書籍で買ったので(野村麻理著『香港風味』)、早速読んでみるも、食を切り口に香港を語るエッセイ、残念ながら私には楽しめなかった(食にそれほど興味がないせい)。香港の本ってたくさん出ているけれど、私好みのものにはなかなか出会えず・・・難しい。