私のかけら 17  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

1月×日 願い

昨日の夕焼けは綺麗だった。沈む日を受けた空が赤く染まって、燃えているみたいだった。この頃、よく夕焼けを眺めている。夕焼けを眺めながら、早く春が来ますように、と願っている。

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1月×日 真夜中の目覚め

真夜中に目が覚めた。頭の中でカエターノ・ヴェローゾが流れていた。記憶が紡ぐギターの音色、美しい声。なんて贅沢な目覚めだろう―そう思いながら、再び私は目をつむる。大丈夫、眠れそう。羽根布団はぬくぬくと温かい。
十二月はどういうわけか、連日、うまく寝付けなくて、つらい思いをしていた。たとえ寝付けても、またすぐに目が覚めてしまったり、そのまま朝まで眠れなかったり。それが一月になって、だいぶ解消されつつある。
眠りって、自信と相関関係にあるように思う。眠りをコントロールできていると自信が湧くし、眠りに振り回されていると自信を失う。そういう意味では、少しずつ自信を取り戻している私。ほっとしている。

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1月×日 夕焼け

イラストレイターOさん、編集者Yさんとミーティング。
一年ぶりに会うOさん、いい一年を過ごしていたようで、幸せそう。話にも弾みがある。
次の用事が控えているというOさんを見送った後、Yさんとふたり、小一時間ほど話し込む。最近私が悩んでいる原稿のことなど。

帰宅後、部屋の片づけをし、ふと窓の外に目をやると、今日も綺麗な夕焼けが。明日はエアコン交換の工事がある。天気予報は雨だけど、業者のひとが可哀想、何としても晴れて欲しい。

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1月×日 専門用語

朝九時から始まった空調設備の工事、夕方までかかると思っていてください、と言われていたのに、午前中で完了。雨が降り出す前に終わって良かった。これで寒さに震えず仕事ができる(仕事部屋の空調が壊れていた)。新品のエアコンから吹き出す温風が暖かくて感激。

それにしても。工事のひとたち、「今日はよろしくお願いします!」とどやどや入って来て、わわわーっと作業をして、さっと引き上げていくの、いかにも職人さん、という感じでかっこ良かった。会話も専門用語が飛び交っていて。私は、これといった特技がないから、技術職のひとを見ると憧れてしまう。

午後、予定外に時間が空いたので、アニメーション『四畳半神話大系』を観る。『デビルマン crybaby』があまりに良かったので、同じ監督の他の作品も観てみようと思って。原作は森見登美彦の青春小説。話題になった作品だし、楽しみにしていたのだけれど、結論から言うと、独特な世界観が面白いものの、好きと言えるほどではなく。セリフがものすごく早口で(そういった演出)、スピードの速い会話に慣れていない私は、最終話を観終える頃にはグッタリ。

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1月×日 本日休業

体調は悪くないのに、どういうわけかやる気が出ず。一日無為に過ごしてしまう。ジムに行くつもりだったのにそれもキャンセル。曇りのせいか、やたらと眠い。

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1月×日 今年最初のヒヤシンス

四つ育てているヒヤシンスのうちのひとつ、濃い赤紫色の花が今日開いた。冷蔵庫から室内に移して一カ月半、なかなか成長しなかったので、無事に咲いたことが何より嬉しい。華やかな香りが流れ、部屋の中もぱっと明るくなった気がする。
花はいいなあ、と改めて思う。切り花もいいけど、自分で育てて咲かせた花は格別だ。形が不格好でもそれさえ愛しく感じられるのだから。

今日は、仕事をしていたら、スマートフォンに、小室哲哉さん引退の速報が入ってきた。詳しい記事も読んでいないし、ファンでも知り合いでもない私が考えることは的外れかもしれないけれど、後ろ髪引かれる思いはあるにせよ、辞め時みたいなことは考えていたんだろうなあ、とぼんやり思った。人間、六十歳ぐらいになると、そういう気持ちにもなるのかも、と(想像)。その一方で、生涯現役というひとがいるのも事実だけど。いずれにせよ、フリーランスには定年がないからなあ。自分で自分の幕引きについても考えなくちゃいけない。なんだかちょっと切ないね。