私のかけら 04  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

7月×日 挑戦

午後、区役所で都議会議員選挙の期日前投票を済ませ、その足で打ち合わせへ。Mさんたちが現れるまでの時間を使って、スマートフォンで香港関連のニュースをチェックする。今日、彼の地では、香港返還20周年記念式典が行われている。習近平、国家主席就任以来、初の香港訪問。ニュースの見出しには、“習近平主席「中央への挑戦は絶対許さない」”と出ている。そう言うだろうとは思っていたけれど、活字で見ると一段と強烈。怖い。

夜、ウォン・カーウァイ監督『2046』を鑑賞。

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7月×日 食べくらべ

昨夜観たウォン・カーウァイ監督『2046』、映像は綺麗だけど、面白いような、面白くないような、よくわからない作品だった。でも、ウォン・カーウァイの映画って、いつも一回目に観たときはぴんとこなくて、二回目以降に面白く感じ始めるから、これもそうなのかも(評価保留)。

今日は午後、Eさんとカフェで落ち合い、ご実家から届いたというさくらんぼを分けてもらった。佐藤錦と紅秀峰。家に帰って包みを開くと、一粒一粒がツヤツヤと光ってとても綺麗。早速、食べくらべてみたら、紅秀峰のほうが紅くて甘く、佐藤錦のほうが色が薄くて酸味があった。どちらかと言えば、佐藤錦のほうが私は好み。
夜、原稿執筆。蒸し暑さに汗を流しながら、秋の風景を書く。

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7月×日 選挙の結果

結局、今日の気温は何度まであがったのだろう。30度は越えたはず。梅雨だというのに真夏の天気。水ばかり飲んでいる。
昨日の都議選の結果は、自民党大敗。都民ファーストが第一党に。そして先ほどニュースを見たら、小池百合子知事は早速代表辞任とのこと。何だかなあ、という感じ。そんなこと、選挙期間中には決まっていただろうに。
夜、紫陽花柄の手ぬぐいで汗を拭き拭き、原稿執筆。頭がぼーっとして捗らない。それでも窓の外ではびゅうびゅうという風の音。暑いのに風が吹いているなんて不思議。窓を閉めて空調を入れているからわからないけれど、もしかして外は涼しいのだろうか。

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7月×日 井原西鶴

この間まで観ていたアニメ(『サムライチャンプルー』)のエピソードの中に、井原西鶴の『男色大鑑』が出てきて、そういえば井原西鶴って読んだことがないな、と思ったので、手始めに『好色一代男』から読んでみることに。サクサク読み進められる現代語訳を探し、迷った末に吉行淳之介訳を選ぶ。ついでに武田百合子の新刊、『あの頃―単行本未収録エッセイ集 』も購入。書籍代、二冊まとめて4000円なり。

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7月×日 好色一代男

『好色一代男』、サクサク読めるかと思いきや、難しい漢字や意味のわからない言葉がたくさん出てきて、辞書を引きながら読んでいる。しかし、これがなかなか面白い。知らない日本語を知る喜び。木下闇(こしたやみ)、雲に梯(くもにかけはし)、入相の鐘(いりあいのかね)、樒(しきみ)、うるみ朱、栴檀(せんだん)、榧(かや)、緡(さし)・・・・。時にはインターネットの画像検索も使って調べる。植物や着物の柄などは写真で見れば一目瞭然。とても便利。
肝心の物語のほうは――今日は巻二の途中(世之介15歳の章)まで読んだけど――ひとつひとつの章が短く、主人公がどんどん新しいひとと出会っていくところが『源氏物語』みたいだな、と思った。あと、連想したのは、マルキ・ド・サドの『美徳の不幸』『悪徳の栄え』。性を軸に人間を描いているところ、ツッコミどころが満載で笑っちゃうところが似ている気がする。

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7月×日 新作発表会

夕方、ブルガリの新作香水“ゴルデア ローマンナイト オードパルファム”発表会へ。ブルガリらしい華やかさのある香り(ブラックピオニー―チュベローズ/ジャスミン―ブラックムスク)。夏につけるには、やや重いかな、と思ったら、発売は秋とのこと。納得。調香師はアルベルト・モリヤス。

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7月×日 願い事

七夕。
本日も東京は30度超え。ベランダのポピーは、瀕死の状態。水は遣っているけれど、春の花だから、このまま枯れてしまうに違いない。私はといえば、今日もノースリーブのワンピースで原稿執筆。秋の情景の続きを書く。
午後、打ち合わせ一本。20分で終了。折角出てきたので、帰りに喫茶店で事務所スタッフYと落ち合い、お茶。
帰宅後、注文しておいた歳時記が届いたので斜め読み。七夕が秋の季語だということを知る。
願い事はひとつかけた。

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7月×日 三十四歳

終日、読書。『好色一代男』。世之介、三十四歳の章、親に勘当され、放浪していたのが、突然、父の死によって遺産相続を受け、大金持ちになる――というところまで読んだ。ここから先は、そのお金を使って、島原や吉原の太夫たちと遊ぶ話になるらしい。

 

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7月×日 七月のバラ

昨日はお休みをとって横浜へ出かけた。
中華街で飲茶して、山下公園を散歩して、ティーラウンジでお茶を飲んで、夜にはまた中華料理を食べに行き、ホテルに泊まってふかふかのベッドで眠った。
一日、目的もなく過ごして、それ自体、楽しかったのだけれど、特に印象深かったのは、山下公園でバラを見たことだ。ちなみに、山下公園のバラ園、種類は百九十、株数は二千六百にも上るという。規模は小さいながら、株を詰めて植えているため、バラが生い茂っているように見え、その様子は花園という言葉がぴったり。私は毎年、どこかしらのバラ園を訪れているけれど、今年はどこのバラ園にも行けなかったので、咲き乱れるバラが見られて(香りも楽しめて)嬉しかった。
食事もおいしかったけど、やっぱり私は花が好き。花より団子ではなく、団子より花だなあ。

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7月×日 覚え書き

もう二日も経っているのに、山下公園のバラ園のことばかり思い出してしまう。七月だというのに、たくさんのバラが咲いていて、本当に綺麗だった。野バラが見られたのも良かったな。新宿御苑のバラ園みたいに一株、一株、陳列するように並べるのではなく、バラと宿根草を一緒に植えてワサワサさせているところも好ましかった。あんなに可愛らしい庭園がそばにあったら、毎日の散歩がどんなにか楽しいだろうに。山下公園の近くに住むひとがうらやましい。
それにしても――。七月でさえ花が咲き乱れているといった様子だったのだから、これが、一季咲きのバラの開花が加わる五月なら、どれだけ贅沢な庭園になるのだろう。来年は絶対、五月に山下公園へ行くこと。それから、今回は行かなかったけれど、港の見える丘公園のほうにもバラ園があるらしいから、次回は、そちらのほうも訪れること。以上、二点、本日の覚え書き。

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7月×日 ガブリエル シャネル

午後、シャネルの新作香水”ガブリエル シャネル”の発表会へ。
以下、感想メモ。
四つの白い花。オレンジフラワー、ジャスミン、イランイラン、グラース産のチュベローズ(グラース産のチュベローズ→普通のチュベローズよりも軽やかさがある)。フワーッと湧きあがるような花の香り。多幸感。花の香りを重ねると重さが出がちだが、そこで重さを出さないところに、この香水のモダンさが。No.5 ローよりも私好み。オレンジフラワー→香りの中に茎や葉の匂い(トップノートに現れる植物の瑞々しさ)。オリヴィエ・ポルジュらしい、輪郭を立てない、広がりのある香り。透明感。花の香りでありながら、知性を感じさせる(知的な印象>官能性)。ジャスミンのなめらかさ、上品さ、ぬくもり(→シャネルのフレグランスの個性)。ベタッとした甘さがないので夏につけてもOK。ボトルデザインの革新性。ジュース(液体)のオレンジ色とキャップのゴールドの彩り。ガラスの薄さ←新しい時代を感じさせる。オードゥ パルファム。9月1日発売(先行販売あり)。

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7月×日 原稿書き

終日、原稿書き。

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7月×日 今日も原稿書き

今日も、終日、原稿書き。