私のかけら 03  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

6月×日 距離感

午後、冷たい雨が降る。
山口文憲著『香港世界』読了。香港に住み、香港人の暮らしをつぶさに観察し書きあげているにもかかわらず(当然、あふれんばかりの香港愛を感じるが)、著者が香港を好きだとも嫌いだとも言わないところがいい。香港という街との距離感が絶妙。本書を読んで、ある街について書くということは、その街と自分との距離を書くということでもあるのかも、と思ったり。「生き方と死に方」、「香港的体験」という章と、後半のエッセイが特に面白かった。

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6月×日 オーバー・フェンス

映画『オーバー・フェンス』を観る。山下敦弘監督、佐藤泰志原作。蒼井優演じるヒロインがエキセントリックなキャラクターで、唐突に泣き出したりわめき出したりするので怖かった(感情の起伏が激しいひとが苦手・・・)。ネットで調べると、ヒロインの設定含め、大幅に脚色が加えられているとのこと。

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6月×日 世界は知らないことだらけ

快晴。読書日和。
『池上彰の世界の見方 中国・香港・台湾 分断か融合か』読了。“「ひまわり&雨傘」から見る中国、台湾、香港”という章があったので興味を持ち、購入したのだけれど、読んでみると、香港の雨傘運動については、ほとんどページが割かれていなかった。書いてあることも、私が既に知っていることばかりでがっかり。
でも、中国、台湾、チベットについて、いろいろと知識を得ることができたのは良かった。たとえば、「ひとりっ子政策」から「ふたりっ子政策」に移行したのが2016年1月だとか(とっくの昔に産児制限は撤廃されているのだと思っていた・・・)、毛沢東の政策、「大躍進政策」「百花斉放」のことだとか、中学生に向けて行われた講義録にもかかわらず、知らないことたくさん(私が無知なだけ?)。他にも、1949年の分断後、初めて持たれた中台首脳会談が2015年のそれだったということもこの本を読むまで知らなかったし、明の時代に大航海を行っていた鄭和というひとのことも知らなかった(バスコ・ダ・ガマよりも前!)。私は、歴史に触れた本を読むのが好きだけど、読んでも読んでも世界は知らないことだらけだなあ、と思う。

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6月×日 立見券

昨日と打って変わって、東京は梅雨の天気。朝から大雨。半袖のワンピースで外に出るも、あまりの寒さに震え、着替えに戻る。結局、黒のカットソーとデニムのパンツに。
昼、広東語のレッスンへ。今日のテーマは「九龍城寨」。テキストの単語の意味はわかるけど、相変わらず発音がさっぱり。
帰りにドラッグストアで掃除用品を買い、帰宅後、バスルームを掃除する。天井まで拭き上げ、大汗をかく。
夜、編集者Wさんから電話あり。週末のトーク・イヴェント(6月24日)の件。チケットが売り切れたので、立見券が追加販売されるとのこと。

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6月×日 クンドゥン

髪を切った帰り、Max Maraに寄り、洋服を見る。ワンピース一着、カーディガン一枚購入。久しぶりの散財。
夕食後、マーティン・スコセッシ監督『クンドゥン』を鑑賞。ダライ・ラマ14世の半生を描いた作品。この間読んだ本でチベットについて少し齧ったので、忘れないうちにおさらい(それにしても、スコセッシって何でも撮るなあ!)。

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6月×日 喉元過ぎれば

昨夜は、下北沢・本屋B&Bでのトークイヴェントだった。
初めての経験に、冷や汗かきつつ、何とか無事に終えることができた――というか、対談のお相手の、雑誌GINZA編集長中島(敏子)さんに上手にリードしていただいて、必死についていったら終わっていた・・・。中島さん、感謝。最後まで熱心に聞いてくださったお客様にも感謝。そして、お声をかけてくださった本屋B&Bさんにも感謝。
後から考えれば、言葉足らずだったと感じる点も多々あるけれど(そのことを考え始めるとへこむけど)、ひと前で過不足なく喋れるようになるには慣れも必要だろうし、まずは貴重な経験をさせていただいた、という感じ。
読者の方とたくさんお喋りできたのは嬉しかったな。
本屋さんが香水の匂いでいっぱいになっているのも不思議なシチュエーションで面白かった。
また機会があれば、トークイヴェント、挑戦してみたい――なんて、終わったいまだから、気が大きくなっている。喉元過ぎれば熱さを忘れる、って、こういうことを言うのだと思う。

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6月×日 脱力感と達成感

トークイヴェントから二日も経っているのに、まだ脱力している。いい加減、切り替えなければいけないのに、慣れないことをやるとこれだから、もう・・・。
それでも、やってみて良かった、とは思っている。苦手なことに挑戦するというのも、生きているうちにできること、という気がするし、以前に比べ、あがり症がずっとマシになっていることがわかったし(緊張はしたけど)、いまは、経験を積めば、そして、対談相手が中島さんみたいにいい人だったら、ひと前で喋るのもなんとかなるんじゃないか、という気になっている。調子に乗りすぎかな。そんなことないよね。

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6月×日 日常

トークイヴェントから三日目にして心が日常に戻り、今日は朝から地味に机仕事。湿度に悩まされながらもエアコンは使わずに頑張る。映画『あさがくるまえに』の宣伝担当Oさんと連絡がつき、推薦コメント入稿のやりとりなど。『あさがくるまえに』、本当に良い映画なので、ヒットするといいなと思っている。

 

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6月×日 梅雨の試香

今日もじめじめとした空気。暑さはそれほどでないものの、湿度が高く、息苦しい。
午後、ドリス・ヴァン・ノッテンのワンピースに、ゲランのアクア アレゴリア リモン ヴェルデ(オードトワレ)をつけて外に出る。ぽつぽつと雨が降っている。打ち合わせ一本、事務所にて。
夕方、妹とMax Maraで落ち合い、買い物につきあう。妹が取り置きしているものを見ると、ブルーのワンピースと、先週私が買ったのと同じ、黄色い半袖カーディガン。姉妹で同じ服を選んでいることに驚き、笑い合う。
帰りにゲランの香水売り場に寄り、二種類ほど試香。アクア アレゴリアのペラ グラニータ(洋ナシと金木犀の香り)を買おうか迷うも、家にある香水の量を考え、我慢する(香水が多すぎるので減らしたい)。

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6月×日 睡眠不足

眠れずに迎えた朝。長い一日。

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6月×日 六月の楽しみ

毎晩眠る前に少しずつ観ていたアニメ『サムライチャンプルー』、とうとう最終話まで観終えてしまった。寂しい。本当に本当に面白かったから。ストーリーはもちろん、音楽の使い方も良かったし、キャラクターも魅力的、それに結構笑えたし。バサバサとひとが斬られて死んじゃうけど、時代劇だからそれも爽快感があって(殺陣のシーンもかっこ良かった)。ああ、明日から何を観よう。毎日の楽しみがなくなっちゃってとても残念。もう一回最初から観直そうかな。