眠れない/ 猪野 秀史 vol.7

photo 長谷部千彩

僕の音楽武者修行・2
 数年前、占い好きな僕のマネージャーが、ある有名な占い師の鑑定予約が取れたと言うので一緒にみてもらうと「あなたは2021年から2023年まで天中殺よ!」と言われた。天中殺という懐かしいワードを耳にして思わず笑ってしまう。
 前回のアルバムリリースから二年半。世界的にも2021年から2023年にかけてコロナや戦争などのディストピア、いつになく不穏な空気感が漂った。
 人は生まれた瞬間から死に向かって生きている。友人はじめ才気溢れる音楽家たちの悲しい知らせが毎日のように届いた。
 僕はライブ活動もままならず、黙々と音楽制作に没入。この天中殺の間に芽生えた感情や巡らせた考えを歌にし、生活の小さなことに大きなインスピレーションを得てたくさんの曲を作った。
 アルバムにする曲が半分ほど仕上がったところで、マネージャーからリリースの提案。二ヶ月おきにシングル配信し、来年アルバムをリリースするという。
 承諾した僕はどの曲を最初にリリースするべきか模索していたが、マネージャーの好みということで『東京狂想曲』という曲が配信第一弾に決定。こんな理由で決めて良いものかと思った反面、これに勝る理由はないと決断した。いろいろ考えたところでこの「なんとなく」には勝てない。
 これまで僕は、楽曲制作からジャケットのアートワークやリリースに関することまで全て自分の感覚に従って決めてきた。けれど、今回は信頼するマネージャーに従うことにした。なぜならば、天中殺だから。  誤解を恐れずに話すと「適当」になってしまった。武士道における「無構えの構え」のような感覚。今までの自分は、音楽に対し力が入りすぎていたようにも思う。コード進行もずいぶんシンプルになった。以前ツアー中の楽屋で、ドラマーの林立夫さんに「リラックスは最大のエネルギー源」という話をしていただいた。その本意を今は理解できる気がする。人生は自分探しの旅のようで自分無くしの旅でもある。
 最初に話したように、この二年間は、どこか気の遠くなるような虚無感がゆっくりと渦を巻いていたけれど、たくさん本を読んだり音楽を聴いて過ごすこともできた。未来からこの時期を俯瞰して眺めた時に、人生最高の時間を過ごしていたと言えるかもしれない。それが「あなた天中殺よ」と占われても、物事は考え方ひとつで暗くも明るくもなるものだと確信している。
 そもそも、こんな拙いエッセイをどこの誰が読んでいるんだ?音楽にしても聴いてくれた人たちに何か幸せでもあるのだろうか?そんなことを考えることもある。ただ、どうでもいいことをあきらめると人間は軽くなるものだ。
 つまり自分の自由に対峙し、純粋に感じたことを他人に理解されようがされまいがダイレクトにぶつける。どういう時でも、澄んだ心で考えることが大事なんだ。僕は音楽活動を通して自分を成長させてもらっている。
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猪野秀史 INO HIDEFUMI 鍵盤奏者 / シンガーソングライター  www.innocentrecord.net