第6回 『Big Chief / Professor Longhair』

 「細野さんが音楽の授業をやるらしいよ!」
 大学二年の秋、私が通っていた学校の夜間部で細野晴臣による音楽の講義が開かれるという噂を聞いた。当時付き合っていた恋人と私は、その話を誰にも口外することなく、講義当日に夜間部の授業に潜り込んだ。こんなにも心が踊る授業が、世の中にあっていいのだろうか。民謡やカリプソ、スウィート・エマ・バレット、古今東西の未知の音楽を流しながら、細野さんが解説をしてくれた。どの音も初めて耳にするものばかりで興奮した。
 なかでも度肝を抜かれ、聴いた途端に気分が高揚した音楽が、プロフェッサー・ロングヘアだった。軽快でエネルギーに溢れたピアノの音色と、官能的な歌声。授業の後、すぐにレコードショップへ行き、彼の遺作にあたるアルバム『Crawfish Fiesta』を買った。それからというもの彼の虜である。街を歩くときも、家の中でも聴いていた。
 あるとき、大学のパソコンルームで課題を進めようと思い席をとった。イヤホンをパソコンに繋ぎ、プロフェッサー・ロングヘアの『Big Chief』を流しながらノリノリで作業を始める。
 二曲目がはじまって暫くすると、背後から肩を叩かれた。
「ちょっと、音漏れてるよ」
 私はイヤホンを外した。すると驚いたことに、張りつめた空気のパソコンルームに、プロフェッサー・ロングヘアのご機嫌なリズムが鳴り響いていた。音は漏れているどころではなく、大音量のBGMと化していた。課題に追われている皆の呆れ返った顔。「次の曲もまた堪らないんだよね」などと言っている雰囲気では全くない。
 隣に座っている女の子は、何故すぐに教えてくれなかったのだろう。私だったら「ねえ、イヤホンのプラグが外れてるよ。ところでその最高な曲はいったい何?」と話し掛けたのに。しかし彼女は気まずそうな顔をするばかりだった。私はばつの悪い思いで、一週間くらい落ち込んでしまった。それから恋人と言い合った。これから先、結婚式や葬式をあげるようなことがあったら、そのときは『Big Chief』を流そうって。

① 東京ボンベイ ( キーマカレー ) / 恵比寿

 昨年までサラリーマンを36年間やっていました。週に5日は満員電車に乗って会社に行く。苦痛な時間ですが、食いしん坊なので“今日のランチのこと”を考えて、耐え忍んでおりました。今回からはじまる新連載は、その“ぼくが9,000回以上車中で楽しみながら悩んでいた気持ち”をコンセプトにしました。題して「食いしん坊の会社員が、 20日に一度は食べに行きたくなるランチ店」。毎回一軒、推しメニューとともに紹介していきます。記念すべき第1回は恵比寿のカレー店。店の名前は【東京ボンベイ 恵比寿ガーデンプレイス店】です。猛暑はスパイスの効いたカレーを欲しますからね。ぼくが足繁く通っているカレー屋さんに【デリー(上野店/銀座店)】がありますが、こちらはその流れをくむ店。千葉県柏にある1963年創業の名店【カレーの店 ボンベイ】の東京支店のひとつです。日本人の味覚に調整したインドカレー店だと思います。ですから、あの激辛旨味のカシミールカレーもあるし、インドも、コルマもある。ですが、ぼくはこちらでは「キーマカレー」を注文します。鶏挽肉を使っていてヘルシーだし、香り高いスパイス使いが最高です。ドライ系のキーマを出す店も多いですが、こちらはルー系。辛いのがお好きな方は、店員さんに食券を渡すときに「赤キーマで」とお願いしてください。時間があるなら、近くに東京都写真美術館もありますよ!恵比寿近くで打ち合わせの際はぜひこちらに行ってみてください。

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