第2回 『Sleepwalk / Santo & Johnny』

 蒸し暑い夏の夜、少年は家を抜け出し、明け方まで外をほっつき歩いた。水たまりを見つけると勢いよく飛び込む少年の靴は、いつも水浸しで薄汚れていた。少女は目を覚ましたとき、隣で眠っていた少年がいなくなっていることに気付き、ひどく寂しい思いをした。
 朝がくると、少年は道端で拾った大きな枝を持って帰ってきた。そして、まるで冒険から戻ってきたかのように目を輝かせ、真夜中の散歩がどんなだったか話すのだった。自分が眠っている間、外は世界の秘密が詰まっているように思えて少女は羨ましかった。少女も寝間着のまま夜明けまで、あてどなく歩いてみたかった。けれども、背後の人影や、道路脇に駐められた車に怯えながら暗い道を歩くのはご免だった。
 扉が開かれることのない夜、少女はレコードにそっと針を落とした。真空管ラジオから流れてくるような、朧げなスティール・ギターの音色に耳を澄ませながら目を瞑り、見たことのない遠い遠い国を懐かしんだ。暗い青色の道を行きつ戻りつし、ときにバレリーナのように、ゆっくりと優雅に回転して進んでゆく歩行者を夢想した。そのうちに、外へ出たい心は消え失せ、胸をしめつける音楽の中に身体ごと溶け込んでいった。音に意識を委ね、南国の深く青い海原に浮かび、漂った。やがて少年の大きな枝は、岸に流されていった。少女はそれを手にすることなく、波と共に見えなくなるまで見送った。

① 東京ボンベイ ( キーマカレー ) / 恵比寿

 昨年までサラリーマンを36年間やっていました。週に5日は満員電車に乗って会社に行く。苦痛な時間ですが、食いしん坊なので“今日のランチのこと”を考えて、耐え忍んでおりました。今回からはじまる新連載は、その“ぼくが9,000回以上車中で楽しみながら悩んでいた気持ち”をコンセプトにしました。題して「食いしん坊の会社員が、 20日に一度は食べに行きたくなるランチ店」。毎回一軒、推しメニューとともに紹介していきます。記念すべき第1回は恵比寿のカレー店。店の名前は【東京ボンベイ 恵比寿ガーデンプレイス店】です。猛暑はスパイスの効いたカレーを欲しますからね。ぼくが足繁く通っているカレー屋さんに【デリー(上野店/銀座店)】がありますが、こちらはその流れをくむ店。千葉県柏にある1963年創業の名店【カレーの店 ボンベイ】の東京支店のひとつです。日本人の味覚に調整したインドカレー店だと思います。ですから、あの激辛旨味のカシミールカレーもあるし、インドも、コルマもある。ですが、ぼくはこちらでは「キーマカレー」を注文します。鶏挽肉を使っていてヘルシーだし、香り高いスパイス使いが最高です。ドライ系のキーマを出す店も多いですが、こちらはルー系。辛いのがお好きな方は、店員さんに食券を渡すときに「赤キーマで」とお願いしてください。時間があるなら、近くに東京都写真美術館もありますよ!恵比寿近くで打ち合わせの際はぜひこちらに行ってみてください。

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