ボニータ ゴー・ホーム

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ボニータ ゴー・ホーム

ガタつく鍵盤に
苛立ちながら
オレは『最後の恋』を
弾いている
おそらくこの店で
100万回は弾いただろう

涙を浮かべる奴
チークを踊る奴
全く耳を貸さない奴

いづれも
100万回繰り返された
フロアの光景だ

グラスが
砕ける音がする
でも揉め事じゃない

古い「武勇伝」に
それぞれ磨きをかけ
オトコ達はそれで
満足してる

連れられてきた
オンナ達は
若く美しいが
退屈し
困惑している

いったい何時になったのか
誰も知らない

酔っているのか
そうでもないのか
わからない

新しいタトゥーを
自慢したいが
何処に彫ったのか
わからない

夫なのか
恋人なのか
今はどちらなのか
わからない

ハンドバッグの中
何処に口紅が
紛れ込んだか
わからない

だから多分
夜は
もう遅いのだと思う

オレも演奏を
終わらせよう

エンディングのコードを
弾き終えると
知らない奴が
ピアノの横に近づき
話しかけてきた

何年か前あんたがピアノに翔び乗って足で弾くのを見たよ
最後は蓋を外して客席に投げたのが最高でさ
あの晩は随分キメてたんだってな?
裏の階段で女達にシャブらせたのも知ってるんだ
最近はデモにいたよな
腐った世の中はぶっ壊さなきゃと思うだろ?
あんたは反体制だもんな
オレはあんたのやる事よくわかるんだ
あんたの事は何でも知ってるんだぜ

何の話だって?
悪いけど
オレじゃない

そんな事より
帰ったら
オレは夜明けと共に
シーツを洗いたい

青空の下で

シーツは
白く輝くだろう

そいつで眠りたい

そうしたら
ずっと眼が醒めなくたって

構いはしない