第9回 原宿の老舗インポートショップ
好きなもの、好きなことを追いかけている人はなぜ魅力的に見えるのか。
私が 20 年以上通い続けていたお店、原宿にあったインポートショップ「キャシディ」が今年の1月末に閉店した。
まだ「セレクトショップ」という言葉が存在しなかった1981年にオープンして以来、移り変わりの激しい原宿で45年近くも営業を続けていたことになる。
私が洋服に興味を持ち始めた十代の頃から、キャシディは多くのファッション雑誌で紹介されていた。そしてお店の「顔」である八木沢博幸さんもよく雑誌に登場していた。
初めてお店で見かけた時は有名人に会ったような気分だった。
何度か通っているうちに顔を覚えてもらい、話しかけてもらえるようになった。
嬉しかったのでしばらくは「顔を忘れられないように」と、マメに通う事を心がけていた。
といっても実際は2〜3ヶ月に1回程度しか通えなかったのだが、それでも八木沢さんは私の顔だけでなく以前に買った服についてもかなり細かく覚えてくれていた。
そしてとても気さくな人だった。
ジョークを交えながらボソボソっと小声で話す八木沢さんとの会話はとても楽しく、好きな洋服やブランドについての豊富な知識を愛情たっぷりに語ってくれるのを聞くのも好きだった。
キャシディはアメリカントラッド系のお店だが常に新しいブランドをいち早く取り扱っていて、保守的になり過ぎず、堅苦しくないところも好きだった。
好きな服に触れ、新しいものに出会い、八木沢さんに元気をもらうために通い続けていたのだと思う。
そのキャシディが建物の老朽化を理由に閉店してしまい、八木沢さんにも会えなくなってしまった。親しくさせていただいた、といってもあくまで店員さんとお客の関係であり、お店がなくなってしまったらもう会うことはできない。
そんな八木沢さんと、思わぬところで再会する事になった。
先日、宇都宮でライブをする機会があったのだが、なんと客席の最前列に八木沢さんが座っていたのだ。
ライブの主催者の一人が八木沢さんと知り合いで、私のライブがあるからと「サプライズ」で呼んでくれたという。
八木沢さんは今、栃木県にお住まいで、お兄様が経営されているレコード店で「店番」をされているとのこと。
何も知らなかったので、本当に驚いた。
嬉しすぎるサプライズ。
久しぶりに八木沢さんとお話ししたら、
「矢舟さんが初めて買ってくれたのはマリアーノ・ルビナッチのシャツでしたよね」
「アメカジがお好きなのに何でイタリア製のシャツなんだろうって思いましたよ」
と、私が 20 年以上前に初めて購入した服のことを覚えてくれていて、そしてボソボソッと小声で話す、あの話し声を久しぶりに聞くことができて感激した。
好きなもの、好きなことを追いかけて突き詰めること、
常に新しいものに興味を持ち取り入れること、
原宿の老舗インポートショップからたくさんのことを教わった。
イラスト:伊藤敦志