会えない時はいつだって

矢舟テツロー

第7回 大人と前髪

矢舟さん

私の周りにはもう二十年、いや三十年近くずっと同じ髪型をしている男性が何人もいる。
中には十代の頃から散髪してもらっている床屋に通うため毎月二時間以上かけて東京から実家のある千葉まで行く、という知人の男性もいる。

人は歳をとればとるほど、変化を嫌う。
だが時代は常に変化し、変化を嫌う人は時代から取り残されてしまう。自分はそうならないように気をつけてきた。髪型も季節ごとに少しずつ変えて常にアップデートしてきた・・・つもりなのだが、実際どうなのだろう?
古い写真を見てもいつも同じ髪型で、違いがわからない。服装もスウェットにチノパンという大学生みたいな格好。大学生と言っても「昔の」大学生だ。

大人になってからもずっと、心のどこかに「大人らしさ」への抵抗があった気がする。
自分はまだ何も成し遂げていない。一人前ではない。その後ろめたさ、自信のなさを、できるだけ外見を若く幼く見せることで「自分はまだ若者なんです。まだまだこれからなんです。」と無意識のうちに周囲にアピールしていた。

2021 年にリリースしたアルバム「うた、ピアノ、ベース、ドラムス」のジャケット写真で私は前髪を下ろしている。だが 2023 年にリリースした「ベリッシマを歌う」では前髪を上げ、おでこを出している。

この二年間で自分の心境に変化があった。

小西康陽さんにアルバムをプロデュースしていただいたことで活動の幅が広がり、スーツを着てステージに立つ機会も増えた。今まで憧れてきたアーティストの方々と共演する機会も増え、自分の音楽にも少しずつ自信が持てるようになってきた。
すると少しでも若く見せたいと思っていた今までの自分が何だか恥ずかしくなり、十代の頃から続けてきた前髪でおでこを隠す髪型が嫌になってきた。前髪を上げておでこを出したのは、若さへの執着からの決別だった。

さて、最後に・・・
前髪を上げる髪型に変えたら、女性から「その髪型似合ってますね」と言われることが多くなった。なんだ、もっと早くこうすればよかったと思ったが、女性は外見を見たら瞬時に内面も見透かしてしまうはず。
髪型も服装も、内面が伴っていないと「似合ってますね」とはならないのです。

イラスト:伊藤敦志

矢舟テツロー YAFUNE TETSURO シンガーソングライター/ジャズピアニストsites.google.com/view/yafune