第十七回 答えのないこと

答えのないこと
第十七回 それは彼女だったから

チラシを目にした瞬間から気になり、
これは映画館で観ないといけない!
そんな気がしてひとり駆け込んだ
『君の名前で僕を呼んで』。

イタリア語と英語とフランス語、
時にドイツ語が入り混じり、
光、水、緑で綴られる美しい情景。
曖昧で、儚げで、不安定な
憧れにも似た輪郭のない感情。

眩しいほど美しい作品に魅了され、
遠い記憶から呼び起こされたのは
15歳の頃、パリのバーで出会った
フランスに住むひとりの女の子。

直接話しかけるのも恥ずかしいほど
私に興味をもってくれていた。
そして同姓に興味はないかと、
友人を介して尋ねてくれた。

私の答えが本心だったのか
未だにわからない。けれど、
彼女の憂いを帯びた美しい顔は
たぶん一生忘れることはない。

主人公エリオの父のように、
若さ故の狂おしいほど愛しい一瞬の輝きを
無制限で無限で寛容な愛で包み込む。
幼き日の罪滅ぼしになろうがならまいが
そんな大人でありたい。

“Parce que c’était lui: parce que c’était moi”
(because it was he: because it was I)
—Michel Eyquem de Montaigne(Essais, I, 28)