第十五回 答えのないこと

答えのないこと
第十五回 物質的な日常からの脱却

6年前の初夏。
私は彼女とモロッコ全土を旅していた。
直前までドバイやマラケシュで
雑誌の撮影に追われていた私は、
彼女とは現地のリヤドで待ち合わせた。

ひとりで海外に出たことのなかった彼女。
いわゆる大企業の会社員だった彼女。
英語には苦手意識しかないという彼女。

そんな彼女がインドやスリランカで
本格的なアーユルヴェーダやヨガ哲学に触れ、
スペインでは晴れの日も雨の日も巡礼路をひた歩き、
そしてマチュピチュやイースタ島、
パタゴニアなどを巡る世界一周の旅に出た。

−−I’m in a different world−−
今では見たこともない世界中の景色を
ファインダー越しに見せてくれる。
気がつくと6年前には想像し得なかったほど、
彼女は逞しく、生と向き合っていた。

この国の常識は、常識ではないと。
遠いと思っている絶景は、いとも簡単に見られると。
自分の人生は、自分しか変えられないと。

休みが取れないから、子どもが小さいから。
ありふれた言い訳に身を包み、
見落としていたこと。
後まわしにしている暇はない。
私も一歩、踏み出そうと思う。