ジャズ・アルバムの印象。

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私が死んだとき、葬式でかけてもらいたい曲がある。
それは、マイルス・デイヴィスのアルバム『カインド・オブ・ブルー』に収録されている「オール・ブルース」。いつの頃からか、そう決めている。

ほの暗いサックスのリフに導かれて登場する、マイルスのミュート(消音器)をつけたトランペット。たゆたうように奏でられるメロディ。氷入りのグラスの表面に付着した水滴のごとく、ひんやりとした肌触り。演奏は一貫して、激しい起伏もなく、青白い炎のように流れる。そして、それはいつの間にか、フェードアウトで暗闇の中に消えてゆく。

自分勝手なわがままだけど、私の葬式は、お涙頂戴でしみじみと送られるのでもなく、かといって賑やかにされるのでもなく、あくまであっさりと執り行われてほしい。そのバックに流れるのは、この曲が最もふさわしいと信じている。

「オール・ブルース」だけでなく、『カインド・オブ・ブルー』に収められた曲はみな、同様の雰囲気を纏っている。暗闇の中からほのかに浮かび上がる、静謐でミステリアスな音像。このアルバムを初めて聴いてから25年が経つが、今でも聴くたびに、感動を覚えつつも、音楽の中にある解けない謎の存在を再認識する。それはまるで、1マスだけ埋まらないクロスワードパズルのような。あるいは、事件が解決する前にブツッと途切れてしまった未完の推理小説のような。
そしてその謎は、この先も謎のままでありつづけるのだろう。いつの日か私の葬式で流れるときも、きっと。

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