ジャコメッティ展

ジャコメッティ展
国立新美術館 2017/6/14 ~9/4
巡回展:豊田市美術館 2017/10/14~12/24

数年前に大阪と直島で、ジャコメッティの彫刻を何点か見た。
美術館所蔵作品ののんびりとした展示だったので、大きな部屋で黒いブロンズ像とふたりっきりになって、自分より少し背の低い細長い人に、こんにちは、あなたのご兄弟に他の場所でも会いましたよ。と心の中で挨拶をした。

それ以来、テレビで世界的なレベルの長距離走の選手を見ると、ジャコメッティの彫刻みたいだな、と思うようになった。
私が全力疾走するよりも早く、大きなストロークで、何キロも走りきってしまう細長い強い美しい体。
テレビの音を消して陸上競技を見ていると、高跳びの選手、砲丸投げの選手、短距離走の選手、長距離走の選手と、体の形が全然違うことと、そのそれぞれ個別の美しさに見入ってしまう。
それぞれの競技のために丁寧に作られたそれぞれの体。
なかでも長距離の選手の、早くてとても遠くまで行けてしまう体は、ジャコメッティが作ったような美しさがある、と思う。

今回東京の国立新美術館で展示されているジャコメッティ展では、一番印象的な「とても細長くて少しゴツゴツした人」にジャコメッティが辿り着くまでの、制作初期の作品もたくさん展示されていた。

私が一番笑ってしまったのは、シュルレアリスム表現を経たジャコメッティが一時期、マッチ箱に収まるような小さな彫刻しか作れなくなってしまい、大きくしなくては、と大きくしたら、そのまま縦に伸びて細長くなってしまった、という流れのところだった。

ジュネーブのアトリエで作られた、指先にちょんと乗せられそうな、コインと同じくらいの重量しかなさそうな小さな彫刻も、よく見ると女性の背中の骨格と丸みの表現が精巧で、素敵な形をしていた。
けれど、ものすごく近づかないとよく見えない、数センチほどの作品では、販売にも展示にも適さない。

でも、作品が小さくなってしまう、という作り手の気持ちを、私はわかるような気がした。
その小さな彫刻には、何万文字もある長い小説を書いていた人が、俳句に全ての気持ちをとじこめたくなるような、巨大な装飾壁画を描ける人が、恋人への小さなバースデーカードに愛の全てを描けてしまったような、切実な小ささがあるように見えた。
私の思い込みだけれど、芸術家の「本当の気持ち」には、芸術家それぞれに適したサイズ感がその時々にあるような気がする。
2時間演奏されるクラシックも、2分間立ち止まって聞いた道端のギターでも、そこに本物の気持ちが含まれていれば、どちらもとても美しい。

本当の人間の形、を見ようとして小さな彫刻しか作れなくなったジャコメッティは、大きさのある彫刻を作らないといけない、と一生懸命にモデルと向き合って、彫刻は、縦にそのままニョキッと伸ばされてしまった。
そして、生きて動く人間を彫刻にとらえようとしたジャコメッティの作品は、粘土の塊をいじっては石膏で型をとる、立体による素描のような作品形態になっていった。
ジャコメッティ作品の多くを占めるブロンズ像は、骨組みと粘土で制作された立体を石膏で型をとり、石膏からブロンズ像を鋳造して制作するので、不安定な立体物の瞬間の保存、が大理石や木彫作品に比べてやりやすい彫刻技法でもある。

展示の終盤に置かれている大きな『歩く男』の彫刻は、見ていると確かに早く進んでいるように見えるけれど、歩く人間の姿をどのタイミングで一時停止してもあのポーズにはならない。彫刻の味わいは、作品のサイズ感、存在感と向き合う楽しみでもある。ジャコメッティの作品には、素描の軽やかさがあって、たくさんの作品を見ても重苦しさが残らない。
作品への照明の当て方も丁寧な展示で、一番魅力的に見える角度を自分で探すのも彫刻を見る楽しみだと思う。

国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
03-5777-8600
開館時間:10:00~18:00
(毎週金・土曜は20:00まで、
入場は閉館の30分前まで)
休館日 : 火曜
www.tbs.co.jp/giacometti2017/
巡回先:2017/10/14~12/24
豊田市美術館

《歩く男Ⅰ》、アルベルト・ジャコメッティ、1960、ブロンス、マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス、 Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)
《犬》、アルベルト・ジャコメッティ、1951、ブロンス、マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス、 Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)
《3人の男のグループⅠ(3人の歩く男たちⅠ)》アルベルト・ジャコメッティ、1948/49、ブロンス、マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス、 Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)