『日本 懐かし自販機大全』魚谷祐介

『日本 懐かし自販機大全』
魚谷祐介 (辰巳出版)

199X

深夜に高速道路
バンドのツアーは禁欲的だった
演奏あとの
美酒も美女もない
煙を噴いたアンプを
車に叩きこみ
テレコを響かせ
夜をひたすら走るだけだ

サービスエリアに
まだ僅かにあったハンバーガーの自販機が
オレには唯一の楽しみだった

都市と都市
昨日と今日
中途半端な狭間の中で
ホットなボディならぬ
熱い紙箱と格闘しながら
ふやけたハンバーガーを
取り出して食べた

暗いオレンジ色のパーキングに
長距離トラックが出入りするのを眺め
何処へ行くのか考えてみたが
全くわからなかった

2015

TVや本で見る大阪万博会場は
いつも「未来」だった

最近なんだか
近所の風景に見える事がある

デジタルリマスターの
甘く荒んだ不良の歌声が
聴こえる
「思い出す場所や人達
みんな遠くなりけり…」
ゲロ良い
充分だ
「想像しろ」
なんて偉そうに
オレに歌いかけないでくれ
リンゴ!

雨のように
毎秒毎秒
「現在」が降りしきる
「過去」は足許に流れ
消えてゆく
雨粒が冷たくても苦くても
その全てに
アイ・ラブ・ユー・モア
と言い続けてやるさ

バンドの機材車は
酷使の果てに
早稲田通りで燃えた
それも随分以前の話だ

今は新幹線で移動する
別にリッチになった訳じゃない
概ね快適だが
小林旭を爆音で流す事もできない
熱き心に
熱い紙箱もない
あのサービスエリアの自販機は
もう無いかもしれない

機械はハンバーガーをはきだすより
もっとマシな仕事をやり始めた

夜中にハンバーガーや弁当を差し出すのは
眠たそうな
バイトの店員だ

本について

不覚にも即買いしてしまった今年の一冊
自販機といってもハンバーガーや麺類という
恐らく当時でも「?」な機種が主役
豊富な写真と資料に脱帽
現存地マップはデートやドライブに最適
巻末の「自販機からのお願い」を
よく読んでゴー!

rl_aisatoh