第4回 とても長くて遠い渚 真舘嘉浩

ある方のお通夜の帰り、少しバスに乗って学生時代から馴染みの由比ヶ浜に来た。
夜も遅かったけれど海を見てから帰りたかった。

年も明けた数日後でかなり寒かったが、缶ビールを買って浜辺に降りる石段に座った。
見事に誰もいない。どこから海か境界がわからないほど真っ暗だ。真冬の波の音に包まれる。

少し目が慣れてきた頃、左手の暗闇から老夫婦と思える二人が波打ち際をゆっくり歩いて来るのが見えてきた。僕のいる場所からは随分と距離がある。

夜の散歩だろうか。こんなに寒い冬の夜に。表情まではわからない。

やがて、時間をかけて僕と海と垂直になるところまで来たとき、二人は立ち止り向き合った。僕は少し驚いた。

老いた二人は抱き合った。惚れ惚れするほど長い時間、波打ち際で抱き合っていた。

そしてまたゆっくり、きわめてゆっくり歩いて右手の闇に消えていった。

トレーシー・ソーン「a distant shore」、
あけすけなくせに肝心なことは何も言わない幼馴染の女友達のような一枚。