第二回 「a Summer Place」はどこにあるのか 真舘嘉浩

下町生まれの僕にとって、幼い頃に最も季節感を肯定的に捉えられる場所は「デパート」だった。少しおめかしして、母や伯母に連れて行ってもらったものだ。

そこは夢と憧れの世界だった。東京であってよく知る身近な東京ではない。季節を先取りした新しいアイデアの装飾、なんだか上品ないい匂い、美しく並べられた見たことのない商品…。

そこでは華麗なストリングスやブラスを加えた、インストゥルメンタルの演奏がうっすらと流れていた。それは下町商店街のラッパ型の拡声器ではなく、デパートの高い天井に埋め込まれたいくつものスピーカーから適度な間を持って流されていて、もちろん非日常の空間でこそ、幼い自分に響いていたようだ。

“理想郷”という言葉を考えるたびに、できるだけ服を着込まなくてもいい場所や季節を想う。デパートが夏へ向けてディスプレイを新しくする頃、その光景は僕の全細胞を喜ばせた。そして、もちろんシャワーのように降り注ぐ夏向きのイージー・リスニング。

たとえばパーシー・フェイス楽団の演奏による「夏の日の恋(The Theme From ‘A Summer Place’)」という曲がある。

冒頭の、抑え気味のチャチャチャ、チャチャチャ…と三連のリズムから始まり、青い空に映える白い雲のようなストリングスがメインテーマを奏でる時、僕はデパートの作り出したイメージの向こう側にある”ポジティブな未来”を感じて、今でもうっとりしてしまう。

’80年代のCDの時代が始まり、まずは何よりもイージー・リスニングをCDで聴きたかったのだけれども、元のレーベルやレコードメーカーはなかなか発売してくれなかった。

最初にCD化してくれたのは、電気屋さんの軒先やターミナル駅の臨時店舗などに並べて廉価盤を発売する、よく名も知らないメーカーだと思う。もちろん当時、そんなCDを買い集めては喜んで聴いていた。

できればそれらが、よく晴れた夏の日のデパートの屋上に並んで売っていたなら、僕の理想郷のかけらは現実化していたかもしれない、と今は思う。

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