真夜中のウェイターボーイ(リミックス)

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真夜中のウェイターボーイ(リミックス)

夜の夜中に
安いメシを出すレストランの
ウェイターなんかやるもんじゃない
曲芸さながら
皿を抱えて走り回り
素性の良くない客に
媚びへつらっても
たいしたペイには
ならないからね

タクシーから転げ落ちて
店に入って来る
巨漢の泥酔中年男は
常連だ
この男は
いつも呆れる程食べる
先ずスープ全種から始まり
メニューをあちこち指差し
コース3人前相当は
注文する
自分が何をしてるか
理解してないようだが
酩酊しつつも
完食し
席を立つ

自分の上着の何処に
財布があるかも
わからない程
酔っているのだが
領収書を切らせるのは
忘れない
どうせ宛名は
わかりきってるが
毎回聞く
いつもの事
このウィスキー樽は
一瞬だけクールな態度になってみせ
「あー〇〇プロ」と
大手芸能事務所の
名前をキザに言う
本当かどうかなんて
知らないし
興味もない
樽はまた深夜の舗道を
転がって行き
オレは空の皿を
積みあげる

ワインの在庫を
チェックしていると
ワケありで子持ち
深夜パートの
ウェイトレスが
トレーを抱えて
困った顔で来る

「助けてよ」
「何かやったの?」
「何もしてない」

イヤな予感だ
行ってみると
コーヒー片手の
爺さんが
こわい顔で睨み
「そこに立って聞け」
と言う
唐突に怒鳴る

「お前みたいな奴がいるから戦争に負けたんだ!
お前みたいな奴が日本をダメにしてるんだ!」

返答に困ったが
…まあ

そうなんだろうよ

首筋にイヤな傷のある
黒スーツに
連れられて
東南アジア系の
娘たちがやってくる
フラミンゴの
群れのようだ
ホットパンツから
伸びた脚は
きれいだが
ひどく薄汚れていて
哀しい
いつも彼女達が
去った後の
テーブル掃除は
大仕事になる
黒スーツに
あてがわれた
安いスパゲッティ皿の
半分くらいは
テーブルの上に
こぼして帰る
きっと
あの娘たちが
フラミンゴだから
かもしれない

テーブルの下に
潜り込み
マッシュルームの欠片を
拾い集めながら
時計を見ると
午前4時過ぎだ
もうすぐ朝日と共に
爽やかな笑顔で
朝番のウェイトレスの
女子大生が
出勤してくる
澱んだ夜の空気を
いつも彼女が
一掃してくれる
太陽のような娘
オレは時々
彼女に結婚を
申し込みたくなる

「すみません」
レジ辺りで
女の客が呼んでいる
慌てて這い出し急ぐと
身なりも良く
酔ってる気配もない
きれいな若い女が
ガムや玩具を
売っている棚の前に
かがみこんでいる
彼女の前には
犬だか猫だか
わからないが
同じ形の縫いぐるみが
20個くらい
並んでいる

女はオレを見上げて
笑顔で聞いてきた

「どれがいちばん可愛いと思います?」

勘弁して欲しい
オレは忙しい
やる事は山ほどある
でも客は客だ
仕方なく
覗きこむ

工場で
同じ位置に
縫いつけられた眼が
どれも同じく
虚ろに黒く光って
同じ顔で笑い
並んでいる

答えるしかない

「さあ…どれも同じかと思いますが?」

女はこちらを見ず
微笑をたたえ
ただ愛しそうに
縫いぐるみ達の
頭を順に撫でながら
言った

「みんな違うんですよ」

女の傍らに立ち
窓の外を見ると
まだ朝は
遠いようだった