私のかけら 20  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

2月×日 帰京

高崎から帰京。

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2月×日 台湾海峡一九四九

午後、Mさん、編集者Yさんと打ち合わせを兼ねてお茶。Mさんが最近読んだ本二冊の話をしてくれる。一冊は香港について書かれた本(私も読んだことがある本)。もう一冊は台湾について書かれた本(こちらは今日初めて知った本)。併せて読むとさらに深い歴史の知識が得られるとのこと、私も同じ読み方をしてみようという気に。
その後、話題は香港のことに。私も、久しぶりに彼の地の政治的背景について話す。ここ数年、香港について自分から口を開くことがなくなっていたので、興味深そうに耳を傾けるMさん、Yさんの表情が私の目には新鮮に映った(私の香港話を、興味をもって聞いてくれるひともいるんだなあ、と)。

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2月×日 お喋り

昨日(Mさん、Yさんとのお茶)は、とても楽しかった。いい本(『台湾海峡一九四九』)を紹介してもらえたと思っているし、私も久しぶりに香港に対して思っていることや香港での経験などよく喋ったと思う。
香港の話題というと食べものが挙がることが多いので、さほど食に執着のない私は聞き役に回ることが多いけど、昨日のように歴史の話、政治の話となれば、私も喋る意欲が湧くのだなあ、と自分のことながら小さな発見。

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2月×日 長い夢

夢を見た。長い夢だった。私とR君はテーブルを挟み、談笑していた。彼は昔とちっとも変わっていない。またこんな風に時間を過ごせるなんて。夢の中の私は心から喜んでいた。
目が覚める。白い天井。窓のほうに目をやると、カーテンの隙間から、明るい陽が射している。
R君は、古い友人。20代の頃は、毎週のように会っていた。でも、いま、彼と連絡を取り合うことはない。なんとなく疎遠になり、既に長い年月が経っている。
どうして突然、彼の夢なんて見たのだろう。私は心のどこかでR君との再会を望んでいるのだろうか。自問する。そして否定する。そういうわけではない。会って話すことなど何もない。そもそも夢に意味はない。
キッチンに立ち、水を飲む。夢って不思議。忘れかけていた会話のやりとり、ひととの間に流れる雰囲気を、記憶の奥底から引っ張り出し、再現してみせるのだから。
この先、R君に会うことはないだろう、改めてそう思う。自然と疎遠になったのなら、疎遠なままにしておけばいい。会うとすれば、今日みたいに夢の中で――それがたぶん相応しい。
過ぎ去った日々。唐突に現れたその続き。今日、私は夢を見た。長く楽しい夢だった。

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2月×日 恋は雨上がりのように

アニメを観て興味を持ったマンガ、『恋は雨上がりのように』。昨日はそのコミックスを第九巻までじっくり読んだ(現在出版されているのは第九巻まで)。あらすじを簡単に言うと、女子高校生と彼女のバイト先であるファミレスの中年店長との恋物語。最初アニメを観たときは、絵柄も好きになれなかったし、恋愛もの・・・苦手かも・・・と思ったのだけれど、観続けていくうちに、女子高生の一途な思いだけでなく、中年店長の心の成長もしっかり描く作品なんだな、と気づき、原作も読んでみたくなって、電子書籍で大人買い。実際、読んでみたら、登場人物の心の動きを丁寧に追ったいい作品だった。“おじさん”とひとくくりにして語られがちな中年男性にも友情や内省や個性や生きがいがあるというのが、読み進めていくとわかるようになっていて、そこが女子高生のそれとコントラストを成しているのも作品としてユニークだし、リアルだなあ、と。恋愛が物語を牽引していくけれど、実のテーマはそこではない、大人にとっても沁みる内容。第十巻が出たら、是非読みたい。

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2月×日 検査の結果

先週受けた検査の結果を聞きに行く。胸のしこりはやはり良性ということで、11月から続いていたがん検診はこれで終了。足取りも軽く病院を後にする。帰り道、見上げた冬空は真っ青だった。

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2月×日 宇宙よりも遠い場所

昨夜は、眠る前に、アニメ『宇宙よりも遠い場所』を観た(今期放映中なので6話まで)。女子高生4人組が南極へ行く物語。
最初、南極というのは何かの象徴で、行こうとするけど、行けない話なのだろうと思って観ていたら、彼女たちが観測隊員になり、本当に南極へ行く方向でストーリーが進みだしてびっくりした。私には、実際、観測隊員として南極に滞在した経験がある友達(Cちゃん)がいるから―彼女は、現在、再び越冬隊員として南極に行っている―遠い話じゃないというか、アニメを観ていても、Cちゃんから聞いた話とかぶるエピソード(持っていける私物は自分の体重を含めて100キロまで、とか)がたくさん出てきてワクワクした。ディテール、しっかり取材して作っているんですね(当たり前か・・・)。ついでに公式サイトを見てみると、そちらには南極観測隊員へのインタビューなども載っていて、いままでぴんと来ないまま聞いていたCちゃんの南極話が、それを読んだら、ああ、そういうことか、と、理解できるようになったりして、個人的に得した気分。というわけで、この作品も視聴継続することに。
しかし、アニメの世界というのも、次から次へと新しい作品が生まれてすごいなあ。ほんと、圧倒されてしまう。