私のかけら 18  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

1月×日 冬眠

ここ数日、眠くて眠くて仕方がない。時間を見つけては、ベッドに潜り込み眠っている。特に疲れるようなこともしていないのに、どうしちゃったのだろう。まるで冬眠中の熊みたい。もしくは、土の中の球根。春までこの状態が続くのだろうか。

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1月×日 冬の花々

ヒヤシンスの水耕栽培、球根二球に花が咲いた。薄桃色のものと紫色のもの。残念ながら、どちらも形が不格好。今年は冷蔵庫から出すのが早かったかも。
ベランダのクロッカスは、順調に葉を伸ばしている。蕾が見られるまであと少し。二月中には咲くかしら。たくさん植えたから、開花し始めたら楽しいだろうな。
そして、同じくベランダのヴィオラ。こちらは、花を鳥に食べられてしまって無残な状態。今の時期、鳥も食料がなくて困っているのだろうから、ついばんでいるのを見かけても追い払いもしないけど、早く暖かくなって、よそで餌を調達して欲しい。花のないヴィオラに水を遣り続けるのは切ないから(葉っぱだけのヴィオラの苗はまるで雑草)。

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1月×日 雪の東京

雪はお昼過ぎから降り始め、あっという間に景色を白く覆った。この冬初めての積雪。風に吹かれ、雪はうねるように舞っている。その様を眺めるために、私は何度も窓辺に立った。
東京に暮らしていると、雪が積もるのはせいぜい年に一度。だから、大雪の知らせを聞くと、前夜からソワソワしてしまう。決して嬉しいわけではない。かといって、通勤を強いられない仕事ゆえ、別段憂鬱なわけでもない。宙ぶらりんな心で、なすすべもなく、ただ空を見上げる一日。
夕方五時。児童に帰宅を促すチャイムが空に響く。辺りは白から蒼へと色を変え、風が止んだのか、雪は降るに任せてしんしんと積もりゆく。その美しさに、私は思わず見惚れてしまう。まるで雪の京都を描いた絵画、東山魁夷の『年暮る』みたい!
しかし、その感激を叱るように、ニュースが私を現実に引き戻す。ターミナル駅では入場規制が行われ、大混乱を来しているという。時計を見れば、七時前。窓の外に再び目をやると、遠くで青信号が光っている。のろのろ走る車の赤いテールランプ。まだまだ雪は止みそうにない。凍てつく夜は始まったばかり。私は温かい紅茶を淹れる。果たして、明日はどんな朝になるのだろうか。

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1月×日 嬉しいニュース

暖かな日が射して、通りの雪もお昼過ぎにはだいぶ解けた。ジムに行こうか迷ったけれど、今日は家で仕事をすることに。今月は、ジム、サボり気味。明日こそ、と心に誓う。
午後、郵便物の受け渡しも兼ねて、スタッフYとカフェでお茶。次に受ける検診のことをネットで調べて、不安になっていたところだったので(痛そう)、チーズケーキを食べ、雑談をして気を紛らわす。Yは先週かかったインフルエンザで4キロ痩せたらしい。言われてみると、顎のあたりが幾分すっきりしたような。インフルエンザ・ダイエットだね、とふたりで笑う。
夜、嬉しいニュースが飛び込んでくる。私には直接関係ないけれど、身近なひとに起ったいいこと。聞いていてこちらまでワクワクした。

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1月×日 五十人斬り

昨日は、夜寝る前に、アニメ『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』を観た(三回目)。五十人斬りの殺陣シーンが好き。小池健監督。

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1月×日 訃報

昨日は、夜、ベッドの中で、アニメ『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』を観たのだけれど(二回目)、その後も寝付けず、悶々としていたら、携帯電話にKさんから、石田さん(ECD)が亡くなったというメッセージが届いた。すぐにツイッターを開いてみるも、まだ情報は流れていない。余命宣告を受けている話は聞いていたので、驚きよりも、やはりお医者さんの言う通りになってしまったのか、とやるせない気持ちに。

明けて木曜。通院日。受付を済ませると、一時間半待ち。診察までカフェで朝食を取りながら時間をつぶす。ツイッターを開くと、石田さんへの追悼の言葉が溢れている。石田さんは本当に多くのひとに慕われていたんだな、と実感。

帰宅後、確定申告の準備。領収書を整理し、ファイルにまとめ、税理士さんに宅配便で送る。その他、諸々雑務、電話連絡等も。
夕方五時、休憩がてら紅茶を一杯。窓の外に目をやると、今日もオレンジ色の夕焼け空が。今日は石田さんが亡くなった次の日。死は日常を流れている、と感じる。