私のかけら 08  長谷部千彩

――これはかけら。季節のかけら。東京のかけら。私のかけら。

9月×日 涼風

今日は九月に入って一日目。涼風が吹いている。Yさんに会う。

今年の夏は保険の見直しをした、と話すと、Yさんも、偶然、今年の夏、同じことをしていたという。そして、私と同じように、保険の見直しを通して、死についてだとか、いつまで働けるだろうかとか、そんなことを考えた、と。同時に、死を意識した分だけ強く、人生を楽しまなければ、と思ったとも。
私もこの頃、そのことばかり考えている。いつかは――しかし、必ずやってくる人生の終わり。そこまでの期間を、どんな風に彩っていくかは自分次第なのだ、と。
それにしても滑稽なものだ。自分の人生について立ち止まり、考えるきっかけになったのが、保険の見直しだなんて。人間ってつくづく現実的な生き物ですね。

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9月×日 秋晴れ

気温も下がり、しかもよく晴れていて気持ちがいい。今日は土曜日、部屋の掃除をして一日を過ごす(不用品の処分)。

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9月×日 時間

あと少しで誕生日が来るけれど、今年はなんだか複雑な気分。自分が年を取るのは、どうでもいいことなのだが(嬉しくもなければ、嫌でもない)、高齢になってきた母のことが気にかかる。幸い私の母は健康だけれど、それでも私がひとつ年をとる分、母もひとつ年をとる。誰に対しても時間は平等に流れていく、その容赦のなさを、近頃、強く感じ入る。私はいつまで誰かの娘として過ごせるのだろうか。できるだけ長くその時間を味わっていたいと思うのだが、それは私のわがままだろうか。母と言葉を交わすたび、いつまでも元気でいてね――そんな言葉よりももっと切実に、時間が止まればいいのに、と思う。

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9月×日 青春デンデケデケデケ

午後、Kさんとお茶。時間があったので、その後、映画を観に行くというKさんについていく。池袋新文芸坐。大林宣彦監督『青春デンデケデケデケ』。 60年代後半、香川観音寺市が舞台。ベンチャーズの演奏を聴いた高校生が、友人たちとロックバンドを組み、音楽に情熱を燃やす姿を描いた青春映画。なかなか面白い作品だった。長いけど(135分)。バンドメンバーの役で浅野忠信が出ていた。

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9月×日 布地を選ぶ

昨夜は、ドミューンで石田さん(ECD)の特番があったので、それを一時間半ほど。観始めたのが遅かったので、石田さんのDJは聴けなかったけれど、石田さんが元気だった頃のライヴ映像を観ることができた。
今日は午後、ソファの生地を選ぶため、丸の内のハーマンミラーへ(事務所で使っていたイームズのソファコンパクトを引き取ることになったので、私の部屋に合うよう、生地を張り替えることにした)。紫とベージュ、悩んだ結果、暗めのベージュに。

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9月×日 誕生日

誕生日。昨夜、新しい年にやりたいことを書き出してみたのだけれど、人間ドックに行くとか、香水を減らすとか(たくさんあり過ぎるので)、ベランダの大掃除とか、並ぶのは日常の雑事ばかりで、大きな目標は浮かばなかった。昔はあれこれ先のことを思い描いたものだが、近年は、穏やかに過ごせればそれで良し、と思ってしまう。

今日は広東語のレッスンへ。ジムには行かなかった。帰宅後、部屋の片づけ。バルトークのCDを全て手放すことに。20枚近くあるCDを黙々とハードディスクに取り込む。

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9月×日 My Funny Valentine

誕生日からこの三日間、連日、音楽を聴きながら、部屋のものを整理している。愛着あるものを手放すのは寂しいけれど、なんとなく荷物を減らす時期に来ているような気がして。

今日、一番気分にしっくり来た曲:Lalo Schifrin & Bob Brookmeyer「My Funny Valentine」

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9月×日 本の整理

本の整理。残すものと手放すものに分ける。

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9月×日 A Via Lactea

秋晴れ。遠くでお神輿をかつぐ、威勢のいい声が聞こえる。ロー・ボルジェスの『A Via Lactea』を聴きながら、私は風の入る部屋で今日も本の整理。残す本と手放す本に分けている。
昨夜は、雑誌『Pen』のアフリカ特集を読んだ(2013年8月15日号「いまこそ知りたい、アフリカ」)。読み始めるまでは、読み終えたら処分することになるだろうと思っていたのに、実際読み終えると、これはとっておこうという気に。
こんなことじゃ、ダメだな、と思う。張り替えたソファが届く前に、本を減らして、壁際にスペースを作らねばならないのに。本を手放すのは、難しい。他のものはためらいなく手放せるけれど、本だけはぐずぐずと悩んでしまう。私は本が好きすぎる。

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9月×日 16年

誕生日から5日が経って、一年をどう過ごしたいか、段々はっきりしてきたように思う。いくつかやりたいことも浮かんできた。

今日は9月11日。16年前、アメリカ同時多発テロ事件が起こった日。

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9月×日 球根の季節

9月に入ってからというもの、なんだかずっと落ち着かない。回答待ちの案件をいくつか抱えているからだろうか。別に無為に過ごしているわけではない。仕事は、毎日、少しずつ進んでいる。なのに、足踏みしているように感じてしまうのはなぜだろう。種蒔きでもすれば、ゆったりとした気持ちになれるだろうか。土を触る時間が少な過ぎるのかも。そういえば、そろそろ球根が発売になる頃。この冬は、何を育てよう。ヒヤシンス、クロッカス、チューリップ・・・。

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9月×日 晩夏

気温30度。初秋というより晩夏の暑さ。
午後、打ち合わせ一本。ピエール・アルディのサンダルで出かける。
初対面のMさん、シャツのボタンの色が気になる(白いシャツに黒いボタン)。流行りなのだろうか。
帰宅後、Aさんから電話あり。回答待ちだった案件、ついに進みそう。嬉しい。
別件、Iさんと会う日も決まり、今日はいろいろなことが動き出す日だった。

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9月×日 Jアラート

手放すと決めた本を、私のウェブショップで少しずつ売り始めることにした。今年はSPBSでのショップもやらなかったし、その代わり。というか、愛着ある本が読者の方の手に渡るのであれば、それが私にとって一番嬉しいことなので。

ところで。今朝、また北朝鮮がミサイルを発射したらしい。東京はアラートが鳴らないので、またしても私は熟睡していたのだけれど。それにしても、アラートを鳴らす基準ってどうなっているのだろう。東京を飛ばして長野県は鳴らされていたり、それによって各地で電車が止められたり(なのに飛行機は飛んでいる)、釈然としないのは私だけ?